EtsyとZINE's MATE



僕はNYにいるので残念ながら(本当に残念ながら)、実際に足を運ぶことはできないが、昨夜プレビューで明日7月10日(金)から公式オープンのアーティストブックやジンのフェアであるZINE'S MATEが原宿で大盛況のうちに始まったようだ。

実際には見れないが、主催のUtrechtの江口さんやPaperbackの面々とは、彼らが参加していた去年のNYでのアートブックフェアで会ったり、今年の101 TOKYOにパートナーとしてZINE'S MATEにプレイベントとして参加していただいたりで縁があって、彼らがやりたいだろうことはとってもよく分かったし、直感としてそれが東京にぽっかりぬけていた要素だとも(だから、そこに大きな需要があるだろうと)感じた。

実際に会場に足を運ばれたブルータスの鈴木さんが率直で簡潔ながらとても示唆的な感想をブログに書いている
内容とか、イベントの評価について語りたいのだが、あまりの盛り上がりぶりに詳細なレポートはできません。すみません。丹念に見られてないので。『STUDIO VOICE』の休刊がショッキングに伝えられた週にこんな様子、なんだか皮肉というか、「こういうことなのだな」ということか。ちょっと偏屈な人は「雑誌は読むものから作るものになった」と言うのかな。僕はそう思わないけど。「雑誌は買って読むものであり、作る気になれば、誰でもが作って楽しめるもの」。そんなことは昔からそうだ。

ともかく、このイベントの意義は大きかった世界レベルで活躍するギャラリーから、たったひとりの出版社まで机を並べ、出版物を展示、販売、つまり競い合う。海外からの出品もある。雑誌に興味がある人は誰も、読者でも、あるいは僕のようにそれを生業にする人も、見ておくといい、というか楽しい。主催者がユトレヒトの江口宏志さんたちだというのがよくわかった。


そして、偶然ながら、同じような時間帯にtwitterを通して知ったEtsyの副社長のインタビューを読んだ。Etsyというのは、ブルックリンで始まって今や全世界で利用されているいわば「ハンドメイドでものを作る人達が売り買いできるコミュニティー/プラットフォーム」であるウェブサービスだ。アート作品から、ジュエリー、洋服、家具まである。個人がものを作り、それをサイト上で売り、世界中の手作りものが好きな人たちがそれを購入することができる。この大成功しているサイトの運営者の一人のMatt Stinchcombがインタビューでこんなことを言っている。

I think globally there is a movement away from the mass-produced items that seem to inundate our lives these days.
To put it another way, If your house were on fire, would you grab your plasma screen television, or the quilt your great-grandmother handmade for you?


簡単に訳すと、

最近の私たちの生活に氾濫している大量生産品から距離をおこうという動きが、世界的に、広がっているんじゃないかな。
あるいは、あなたの家が火事になったときに、あなたはプラズマスクリーンテレビを手にとるか、もしくはあなたのひいおばあちゃんが縫ったキルトを持ち出すか?っていうことだと思う。


これは、ありがちで懐古主義的なだけの大量生産批判、技術革新批判とは少し違って、「大量生産品や技術革新はもう前提として生まれたときから、生活の一部としてあって、その上に、つくる人の顔やそれを触ったであろう実際の手を感じたい」という都市的で若者的な感覚が感じられて、賛同できる。よくインターネットはそこに関わる人々の顔が見えなくてなんだか怖いというのを聞く、Etsyではインターネットによって逆にそこに関わる人々の顔、手を世界中の人に見えるようにすることで人間的なコミュニティーを作り出しているのに成功している。

これと相似的なかたちで、それこそ、「『STUDIO VOICE』の休刊がショッキングに伝えられた週に」、ハンドメイドのアーティストブックや、ジンをつくる人、それを求める人のコミュニケーションの場としてのZINE'S MATEは大盛況だったんだろう。大量生産は別に無くなる訳ではない。Etsyに出品されるものの材料、ZINE'S MATEで売り買いされるジンの材料や内容にインスピレーションを与えている多くのものは大量生産されたものだろう。ただ、DJの顔を見ながら踊れるクラブに人々が惹き付けられるように、それらの材料/情報をリミックスして形にしたもの、それをつくった人の顔を見ることができるコミュニケーションに多く人々が惹き付けられているのかなと思う。

このことは僕自身が現代アートに惹き付けられることととても近いように思う。よく誤解されるが、アートビートは「アート」を紹介し、届けているのではなく、「アートに関する情報」を紹介し、届けることで、皆が「アート」が起こっている場所を簡単に探せて、そこに行って「アート」を楽しむことができるサポートになればいいと考えている。

少し脱線したが、ともかく、EtsyとZINE'S MATEは全く違うものであるが、そこに感じる魅力はとても似ている。多分両者がやっていることはとても補完がきく行為で、Etsyはモノ作りをする人々を実際に集めてフェアをやる(僕は知らないだけで、やっているかもしれない)、逆にZINE'S MATEはフェアに集まった人々の継続的なコミュニケーションを即すためにオンラインコミュニティーをうまくつくれば、さらにこの波は大きく育つことができるだろう。

それにしても、ZINE'S MATE実際に見に行きたかったな。とりあえずは初回の開催、盛況ぶりおめでとうございます。

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