美術館での写真撮影について(森美術館のアイウェイウェイに触発されて)

森美術館のアイウェイウェイ展がクリエイティブコモンズのライセンス「表示-非営利-改変禁止 2.1 日本」を採用し、館内での写真撮影を認めたというニュースを確かtwitterで知って、単純に喜ばしいことだと感じた。

例えば、西日本新聞にはこう出ている。
「展覧会の撮影できます 東京・森美術館が試み」

日本を代表する現代美術館として知られる東京・六本木の森美術館は24日、25日に開幕する中国の著名アーティスト艾未未(アイ・ウェイウェイ)さんらの展覧会で、観客の写真撮影を許可する取り組みを試験的に始めると発表した。国内の美術館では非常に珍しい試みで、著作権をめぐる議論に一石を投じそうだ。

 森美術館によると、撮った画像は加工せず、非営利目的で使う-などの条件で、誰でも撮影できる。著作権の柔軟な運用を目指す米国の運動「クリエイティブ・コモンズ」の仕組みを採用した。

 国内では、所蔵作品展の撮影を認める美術館が一部にあるが、外部から作品を借用する企画展の撮影は、著作権の問題などからまず認められない。南条史生・森美術館長は「日本の美術館は少し厳しすぎる。知的財産をもっと創造的に使える条件をつくりたい」と話した。


このような記事に対して、ある美術館に勤める学芸員の友人がtwitterで、「今回のアイウェイウェイが話題になるにあたって、日本の美術館では写真撮影が海外に比べて、あまり認められていないという風潮は正しくないという旨(このtwitterを取り上げるにあたって僕はとてもありがたかったし、好意的に取り上げているつもりだが、本人に確認をとってないので、個人を特定できないように内容を意訳した。)」のつぶやきをしていて、1年ほど前の客観的ですばらしいあるブログ記事「本当に館内での写真撮影ができないのは日本の美術館だけなのか」を紹介していた。僕も今回はじめてこの記事を読んで、とても驚いた。この記事は全文をていねいにしっかり読んでいただきたいが、記事でのざっくりとした結論では、

つまり、こういうことだと思います。

* 欧米では著作権の明らかに切れている(作者の死後70年経っている)作品を中心的にコレクションしている美術館はそのギャラリーを基本的に撮影可にしている。
* 所蔵している作品でも、著作権のきれていない=作者の死後70年経っていない作品を中心にコレクションしていることろは撮影を許可しているところとしていないところがある
* 上記に関して、許可しているのは全てアメリカの美術館であることから、著作権の切れていないコレクションを撮影可としているのは、アメリカのみの特殊な事情=美術館での私的複製が公正使用(フェア・ユース)として認められているから?
* 他の美術館から借りてきた作品は例外なく撮影は禁止している
* 日本の美術館もアメリカ以外の美術館の基準に沿っている

こうしてみると日本の美術館だけが特別に厳しく館内撮影を禁止しているわけではないと判断してよいように思いますがどうなんでしょう。ただ一点、東京国立近代美術館とポンピドゥは著作権の切れていない作品の所蔵が多そうだけど、常設を撮影可にしているのは著作権の切れていないものすべて撮影不可シールを掲示しているということなのか、個人的な私的複製ということにしているかのかどうかは不明。近美はこんど注意してみてみないと。

で、私見ですが「日本だけが美術館のかんない撮影を禁止している」という印象が生まれてしまったかのは、近代以降の作品を中心にコレクションしている日本の地方美術館での経験とと欧米の大都市の大美術館での経験を等しいレベルで計ろうとしてしまっているからではないでしょうか。大都市の大美術館と比べるべきは日本では上記サンプルのようなナショナル・ミュージアムなので、そのレベルで比べてしまえば上記の調査の通り、撮影の許可不許可に関しては日本と欧米での基準に差はあまり見つけられないと思います。


ということになっている。一理あるし、これでやや自分の認識を補正しようとしても、やはり自分の経験から来る感覚とあわないなあと感じ、その理由を考えてみた。

1. イメージの問題?
オープンになってきたとはいえ、まだまだ日本の美術館はお固いイメージ(警備員がなんとなく威圧的、係員が無表情とか)があり、行き慣れた人でないと、美術館に入ると、してはいけないことへの注意が先にたってしまう。その結果、実際には写真を撮ってもいい場所でももちろん撮ってはいけないと思ってしまう???

2. 広報上、コミュニケーション上の伝達ミス?
一つ目とも関連するが、美術館としては、「日本の美術館では写真撮影が海外に比べて、あまり認められていないという風潮」が強くあることを多分認識していて、それを払拭したいと考えているところもあるだろうが、広報上それをうまく世の中に伝えてこれなかった。ここ数年では、写真を館内で撮ってもいいことが記事になっているのは僕が知る限り、今回の森美術館がはじめて。

3. 「美術館で作品を見る」という言葉の中身の違い
これが、一番重要で、多分これが大きな原因と思うが、そもそも大半の人が、海外の美術館に行って見ているものと、日本の美術館で見ているものが違うのだ。上記の末永史尚さんのブログで、しっかりまとめていただいているが、撮影可なのはその館のコレクションの常設展であることが多い。末永史尚さんの結論ではその中身の古さが違うのではということで、それももちろんそうだが、僕が思うのは、そもそも人々が海外の美術館で見ているのは常設展で、日本の美術館で見ているのは企画展でしょということ。これをきれいに示してくれる資料がある。ご存知の方も多いと思うが、"The Art Newspaper"が毎年発表している展覧会動員ランキングだ。2008年のPDF資料はこちら。以前まで、下の1つ目の表だが、「企画展」の一日あたりの入場者数だけが出ていて、日本の美術館の動員数の多さが話題になっていたが、去年くらいから2つ目の「常設展も含めた」美術館の全館入場者のランキングも出るようになった。2つ目のほうがランキングとしてしっくりくるのではないだろうか。




この2つの表から言えることとして、通常人々が思い浮かべる世界の有名な美術館の入場者の多くは常設展を見ている(ので1つ目の表の上位にはあまり出てこないが、2つ目では上位)が、日本の美術館の入場者の多くは常設展ではなく企画展を見ている。もちろん、このどちらの経験も一言で言えば美術館で作品を見るということになる。だから当然、頻度として日本の美術館では写真を撮れないことが、海外の美術館よりずっと多くなる。だからよく出る日本の美術館はという批判は粗いけれど、経験として致し方ない気もする。

そのことをふまえて、今回の森美術館での「企画展」がCCライセンスで写真撮影可というのはやはりエポックメイキングだろう。もちろん、アイウェイウェイが、自身のブログが常に中国政府から遮断されたりしているということからもこのような事例に感心が特に高く、理解もあったのだろうことは推測されるが、レッシグ教授を呼んでCCについてトークイベントを行ったりと、このことにしっかり取り組んでいる森美術館の取り組みは評価されるべきだろう。

今回の写真撮影の件は一つのきっかけであって、よくよく考えれば、日本の美術館の中身の問題につながる。日本の美術館の入場者の多くは企画展を見ているということは、裏を返せば、日本の美術館の入場者の多くは常設展を見ていないということになる。そもそも美術館というのは(購入もしくは寄付により)アート作品のコレクションを行い、そのコレクションを公開し、人々を啓蒙する場所であるはずが、(うがった言い方で申し訳ないが)日本では、美術館の主な使われ方は、メディア企業が企画/主催共催する(この件に関してはarts marketing.jpの記事参照)巨大企画展の設置場所になっているということに行き着く。企画内容にその美術館の学芸員が大きく寄与しているし、すばらしい内容のものも多いのはもちろんだが、「日本の美術館」のあり方を真剣に考える頃合いかもしれない。

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