Tokyo Art BeatのDonationキャンペーンについて



このブログを読んでいただいている方はご存知の方も多いかもしれないが、先週、Tokyo Art Beatを運営するNPO法人GADAGOへの寄付募集のキャンペーンをはじめさせていただいた。詳細は寄付ページより。是非よろしくお願いします。TABを初期から支えてくれている橋本さんも勇気を振り絞ってArt itで紹介してくれています。

現在、開始から1週間たらずのうちに、世界中の50人以上の方から総額13万円以上の寄付をいただいている。1ヶ月のキャンペーン期間のうちにどれだけご支持いただけるかはわからないが、目標は大きく150万円としている。私は、現在、NY Art Beatの運営をしていることもあり、TABの日々の業務には直接的にはタッチできていないが、NPO法人GADAGOの3人の理事のうちの一人に名を連ねているし、またもちろんTABは自分の子供のような存在でもあるので、できるだけ状況は把握して、手助けができるところはするようにしている。

今のところTwitter経由の告知からしていただいている寄付が大半だ。直接的にTABのtwitterのつぶやきから知っていただいた方、TABをサポートしてくださる有力Twittererの方のRTから来てくださるかたなど。また、Twitter経由で、寄付だけでなく、情報公開が足りないなどの重要なアドバイスもいくつかいただき、まだまだ全然足りないが、急遽NPO法人GADAGOについての記述を追加したりしている。

NPO法人GADAGOは大きく2つのことを行っていて、1つがTABの運営、そして年6回のアートマップの発行で、ざっくりどちらも年間1000万円程度の予算で行っている。支出の内訳としては、サイトのほうが人件費(広報、営業、編集、翻訳)が大半、あとは事務所家賃、そしてサーバー代その他というところ、マップは紙、印刷代が大半、運送費、人件費(デザイン、営業、編集、翻訳)というところで、サイトの中のTABlogの執筆、編集、そしてサイト全体のデザイン、プログラミング、その他多くの部分を無償のボランティアに頼っている。逆にその予算の収入を見てみると、サイトのほうはバナー広告が大半、そしてTシャツを中心とした物販、若干の寄付、マップのほうは、マップ上の広告、記事タイアップが大半、石橋財団からの助成金(3−4割)という内訳になっている。

今回の寄付キャンペーンには2つの側面がある。多くの方の目にはTABは今回はじめて寄付を募っているように見えるかもしれないが、実は、NPO法人で運営するサイトとして、毎年のようにサイト上で寄付を募ってきた。そこでも、運営者から顔の見えるサポーターを中心に若干の寄付をいただいてきた。今回はやはりTwitterというインフラができて、TABもそれを積極的に利用してきたことで、日常的にユーザー、サポーターの方々とのコミュニケーションが発生するようになってきていた。そのインフラの上で、寄付の告知を行えたことで、今までよりもずっと大きな反響をいただけているし、また自分たちに抜けている部分を指摘していただけたりしている。サイトとユーザーの単発のコミュニケーションだったものが、サイトとユーザー、そしてユーザーからユーザーへという複合的なコミュニケーションに変化したようだ。このTwitterをはじめとする各種SNSなどのウェブ上のコミュニケーションツールによって、TABというサイトがそのサイトを超えたコミュニケーションをウェブ上で行えるようになってきたということか。つまり、コンテンツを載せたページを生成して、一部コメント欄などはあるものの基本的なコミュニケーションはメールや電話というウェブ上ではないツールに頼っていた時代から、ウェブ上にコミュニケーションそのものが起こっていくという時代になったのだなあと感じる。

もう一つの側面は、毎年やっていたとはいえ、今年はやはり特別で、キャンペーンページでも強調しているように、TABが財政的にとても厳しい状況におかれてしまったということがある。月並みな言い方をすれば、リーマンショック以降の世界の不況の波はTABにも押し寄せてきていて、サイトのメインの収入源であるバナー広告が2009年にはかなり売りにくくなったのだ。コストのかかる紙のマップをやるから大変で、まずはそれを辞めればいいのでは?というようなご意見もよくいただくのだが、実はマップは、モノが手にとれて、都内アートスポットで10万部というのには結構需要があるようで、未だにウェブよりもずっと実感しやすく広告を売りやすい媒体なのだ。もちろんマップがウェブの顧客をくってしまっているところは若干あるにせよ、結構別のクライアントが買ってくれている部分も大きく、マップをやめればサイトの財務が改善するということはなさそうだ。不況不況とは言いたくないが、結論としては、TABの広告のクライアントである美術館、ギャラリー、アートデザインコンペといった業界は2009年はかなり厳しく広報予算などをカットした影響で、身体的実感の無いバナー広告は真っ先に厳しい状況になり、もっと実感しやすいマップを始めていたおかげでそこの広告に助けられているというところか。

アートビートは規模としてはニッチだし、とても小さいし、ウェブでスタートしたメディアだが、根本的には全世界のメディアビジネスが直面している状況、つまり従来のメディアが頭打ちで、皆がウェブに流れはじめ、あるところでウェブからの収益が上がって従来メディアの減分を相殺してメディアビジネスの損益分岐点が見つかると思っていたのが、どんどん損益分岐点らしき点が下に降りて行っていて、どこで均衡するの???みたいな雰囲気の一翼はになっているような気がする。ウェブ前までは、広告のスペースというのは世界中で有限で、それをもとにどのくらいの人が見るかで単価が決まっていたのが、ウェブページがどんどん生成されはじめ、広告スペースが有限ではなくなってきたところで、どうも人のメディア消費時間のほうが有限なんだなと言う感じになって、メディアの単価が全体的にぞぞぞと落ちて消費時間のところでの均衡点を探っているという状況かなと。Avatarみたいに3時間弱のコンテンツを何百億もかけて作って、それを世界中で何億人もの人が2千円払って見るというものと、世界中で何億ページと生成されるページを常にボットでインデックスしていってそれをコンテンツにしていくGoogleのような存在の間で、大規模メディアも僕たちみたいな小規模メディアもコンテンツ生成のコストとその消費の大きさ・質から得られる収入の均衡点を探るためにもがきながら戦略を決めあぐねているということだろう。

長くなってしまいましたが、TABは皆様の寄付を必要としております。
こちらの寄付ページから是非よろしくお願いします。

あけましておめでとうとTokyo Art School告知



少し遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。
ブログは3ヶ月も停滞してしまった、、、。

お正月はできるだけ家族が住む関西で過ごそうとしていて、今年も京都の祖母の家で過ごした。
ただ、12月31日にNYを発って、1月1日に日本に着く飛行機で帰ったのだが、これをやると年越しの瞬間というのが無くなってしまうことに飛行機の中で気がついた。大晦日のお昼くらいにNYを出るときに、日本はだいたい年越しを迎えており、そのまま、飛行機はだいたい時差と同じくらいの速度(つまり地球の自転の速度)で飛行機が移動するので、飛行機がいる場所の時間(アラスカを通るときにはアラスカの時間)はほとんど一定なので、ずっと大晦日の午後なのだが、日付変更線をまたいだ瞬間に1月1日の午後になってしまうのだ。まあ、よく考えれば当然で、今までにNYと東京を何往復もしていて、その間に同じことはいつも起こっているに、年越しという特別な瞬間にそれをやると突然不思議な気分になる。ということで、今年は心情的には年越しはありませんでした。
よく聞かれたのが、年越しのフライトなのだから、シャンパンのサービスくらいあるの?という質問だが、僕たちはANAで飛んだが、何も特別なことは無かった。まあ、それとは無関係にエコノミークラスの座席をプレミアムエコノミーという食事は一緒だけれど座席が一回り大きいものにアップグレードしてくれたので、割と幸せな気分で帰国することができた。

関西では祖母の家で、基本的には何もしないで、美味しいおせち料理を食べて、お酒を飲んでいただけ。
ワイン好きの叔母が、すばらしいワインのセレクションをご馳走してくれて、最高だったのは、なんと、毎年ラベルにファインアーティストを起用しているムートン・ロートシルトの2003、この年は、ロートシルト(ロスチャイルド)家がワイナリーを買って150周年ということで、記念ラベルでアーティストのものではなかったが、味は、ワインは好きでよく飲むけれど高いワインはほとんど知らない僕にも
飛び抜けて美味しかった。

東京に移動してからは、夫婦二人で10日ほども2人の友人の家にお世話になってしまった。東京では、2日間は、人から頼まれて取り組んでいるキース・へリングに関するとても興味深くて意欲的な手法で書かれた英文エッセイ(約40ページ)の翻訳の仕事をみっちりやった以外は、美術館やギャラリーを回ろうと考えていたのに、結局は美術館はほとんど行けず、新しくできたギャラリーをちらほら見に行っただけで、様々な友人とご飯を食べてお酒を飲んでという今までで一番長い2週間も正月気分で過ごすことができた。



僕たちが泊めてもらっていた友人の一人が、建築家/アーティストグループのassistantの有山宙君夫妻宅で、実は彼とは中学校、高校、大学が同じでかれこれ20年近くも友達だ。建築だけではなく、現在だけでも、国際芸術センター青森での展示、京都芸術センターでの展覧会に参加しているし、Pass the Batonという丸の内一号館にできたショップから広がるウェブメディアにも文章を書いていたり、活動はとても幅広い。彼らがお台場の未来館で今行われている「‘おいしく、食べる’の科学展」の会場設計をはじめとするアートディレクションをやっているので、見に行った。会場構成には仕切りの壁はほとんど使わず、何本もの荒縄を張り巡らすことで順路を作り、展示パネルなども荒縄に掛かっている。そのことで入り口から出口までしっかり順路があるにもかかわらず、常に会場全体が見渡せ、そのことで、展示物同士の関係性(食に関するサイエンスの展示なので、科学的関連)をイメージしやすいものにしている。また、美術館、博物館が醸し出しがちな堅苦しさからはとても自由な空間だ。子供が多い展示だが、一つ一つの展示に、触ったり、嗅いだり、何かしらの身体的反応ができるようになっており、開放的な展示空間と合わさって、彼らは奔放に展示空間で遊び、そして意識することなく少し学んで帰ることができていた。

長くなったが、最後に告知。
東京都の東京文化発信プロジェクトと、AITが共同で開催している年間を通じたレクチャープログラムの東京アートスクールの一環として、私もNYから呼んでいただいて、3月にレクチャーを行いますので、是非。

「テクノロジー・情報・身体」
藤高 晃右 × ドミニク・チェン
会場:3331 Arts Chiyoda 体育館(東京都千代田区外神田6丁目-11-14 旧錬成中学校)
期日:2010年3月13日(土)13:00-16:00
入場料:各回一般1,000円、学生/AITメンバー800円 ※当日受付にて支払い
申し込みなどの詳細は下記から。
http://www.bh-project.jp/artpoint/lecture/100313-01.html

以前に展示、レクチャーの企画などで仕事もしたことがあり、友人のドミニク・チェンと、東京という街を軸に、ウェブと文化に関するレクチャーになると思います。内容はこれから僕もしっかり考えて用意しようと思いますが、Tokyo Art Beat、NY Art Beat、101 TOKYOで得た経験をもとに、NYと東京の比較、そしてウェブと文化の関わりについて話そうと思っています。会場がなんと2008年に第一回目の101 TOKYOを開催した旧連成中学校に今年の3月にオープンする3331 Arts Chiyoda内の体育館です。なんという巡り合わせ。

9年9月9日オープニング巡りとJames Turrell

さて、明日は、夏休みあけで1年で一番多くのオープニングパーティーがNY中で開かれる。NYABが把握しているだけでも117ものオープニングが予定されている。チェルシーは多くの人でにぎわうことだろう。今日は、その1日前ということで、チェルシーと日が重ならないようにと計画されたであろう若手ギャラリーが集まるLower East Sideエリアのオープニングデーであった。30−50くらいはあったのではないだろうか。若手ギャラリーが集まるエリアで固まって1日前にオープニングが開かれるなんてまるでアートフェアーのようだが、昨今チェルシーの老舗ギャラリーからの出展が減っているNY最大のアートフェアのアーモリーショーが音頭をとって、来年のアーモリーに出ることが確定しているLower East Sideのギャラリーのオープニングをリストにしてプレスに事前に送るという異例のことも行われた。不況でアートフェア運営が容易ではなくなっていることとともに、Lower East Sideのギャラリー達が重要視されてきているということでもあるだろう。チェルシーに比べれば規模がかなり小さい多くのギャラリーだが、どこも混んでいて、Rivingtonストリートのいくつかのギャラリーを足早にまわったあと、チェルシーで唯一行われた日本でも大人気のJames Turrellのオープニングに行ってきた。

まずは、Lower East Sideのオープニングの中でも評判が良かったSue Scott GalleryのFranklin Evans展の様子を3枚。



ギャラリー内が、様々な紙や日常的なマテリアルで埋め尽くされていて、2階にあるギャラリーへの階段からインスタレーションは始まっている。特筆すべきは、地面のいたるところにしかれたプチプチ音がする梱包材。作品の一部を踏むことで体感するタイプのものはあまり無かったかも。

そしてこのエリアではかなり有力なSalon 94でのCarterによる展示。写真ではわかりにくいが、大きなモノクロイメージ(映画のセットらしい)の上に、ペイントを細かく載せてある。一言でいうと今風。NYだと、こことかTeam Gallery的で、東京だとTaka Ishii Gallery的な雰囲気かなと。

チェルシーほどギャラリーが密集しているわけではないが、ストリートはギャラリーをまわる人達であふれている。

最後は、地下鉄で、大半は明日のオープニングに備えてひっそりしているチェルシーに移動して大御所ギャラリーのPaceWildensteinではじまったこれまた大御所のJames Turrellのオープニングへ。



幾何学模様のホログラムが今回の作品。21世紀美術館、直島の美術館などの巨大なインスタレーションや、越後妻有のHouse of Lightのような作品に慣れ親しんだ日本人の僕たちにとっては少し物足りないかなというのが正直なところ。まあ、ギャラリーの展示としてはこういうのもありかなと。ホログラムは額に入っていて一見1枚のようだがよく見ると5−6枚のレイヤーになっていて見る角度によって形が全然変わる。たまたま知り合いのアーティストにそこで出くわして彼がこの作品のプロダクションに関わったというので少し聞いてみると、単純に見えるこの作品も、オリジナルはある場所で撮影して、それを別の場所でホログラムにして、マイアミで最終作品に仕上げて(彼はここで関わったそうだ)、それをNYに持ってきて展示するという行程に正味3年程度かかっているらしい。

さて、明日の夜は今日の何倍ものオープニングが開かれるので、チェルシーにずっといてできるだけ多くの展覧会に行くつもり。

James Turrell
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アートに関するアーカイブ



夏休みに訪ねたアーティストのFrancis Cunninghamさんが、滞在中に昼ご飯にと、近所の畑から直送のとてもおいしいトウモロコシをゆでてくれてバターと塩でいただいたのだが、僕がこれまで食べた中で一番おいしいトウモロコシであった。

その様子を撮ったビデオが上のビデオだが、妻がカジュアルに撮った物で、これだけ見るとなんのことはない、アマチュア感あふれるプライベートの簡単な料理説明ビデオで、アーティストの彼はこれをオンラインにあげるのはあまり歓迎しないかと思っていた。それが、80歳の彼やその家族がこれを見て、大喜びで、是非、彼の公式ブログにもこの動画をあげてくれとのことで、あがっている。この反応はとても意外だったが、ポジティブな驚きで、アーティストと、アーティストに関する多くの表象物に関して考える切っ掛けにもなった。

昨今、様々なデジタル技術、情報処理技術、それらのシェア技術が進歩して、アーカイブに関してのハードルがかなり下がったこともあり、アートの分野でも、これまでは作品を美術館で保存して、あとはそれに関する出版物をアーカイブするのがやっとというところから、もっと多くのテキスト、画像、動画、音声、それから作品のマテリアルに至るまで、様々なものが様々な場所、メディアでアーカイブされ始めている。今回、このアーティストによる、全くアートとしてのアウトプットとして意識したものでないトウモロコシ料理ビデオを見て、ああ、こういうものもアートに関するアーカイブに含まれてもいいなあと感じた。アートに関するアーカイブというと、いくらハードルが下がって、特別な技術無しに様々なものがアーカイブできるとあっても、そのアーカイブを作る側には、ある一定の先入観があって、これまでどおり、美術史的、学術的に価値がありそうなものを無意識に選別してしまうし、インタビューという形をとれば、30分ー1時間、とても緊張したアーティストとインタビューワーが、そのアートに関するインタビューを双方が全力でやって、それをしっかり編集したものができあがり、保存されていく。これはこれでとても重要な活動でどんどんされていくべきだが、このトウモロコシビデオのように、直接アートに関係がなくとも、間接的に、アーティストとしての彼、彼のアート作品に対するイメージ、広がりに、幅、彩りをあたえる切っ掛けを見いだすマテリアルが残されていくのも悪くないなあと感じた。

例えば、ゴッホのスターリーナイトをMOMAで見て、すごいと思って、彼に関する本を読んで、彼について、彼の作品について多くを勉強すること、そしてほんの少し、彼の人間味に関する情報を得ることはできるけれども、彼が若者達にトウモロコシを茹でながら、トウモロコシの調理について語っているビデオがもしあったとしたら、作品に対するイメージや距離感もまた変わるし、これはこれでより豊かな情報源になるような気がする。僕の好きなアーティストに河原温さんがいる、彼の作品は、デイトペインティングに代表されるようにとてもミニマルなものだが、同時にとてもパーソナルなものでもある。ただ作品から得られる情報、その他のテキストから僕が知っている情報は、お会いしたこともないので、とても限られている。いつだか、最近、河原温さんは麻雀がとても好きで、ほぼ毎日やっていると聞いたことがある。この一片の情報は、聞くまでは全く想像もしていなかったことだが、一度聞くと彼の作品ともなんとなくぴったりくる気がするし、あの一見無味乾燥なデイトペインティングを見る際に膨らむイメージが全然変わって、さらに好きになってしまった。ご本人はどう思われるかわからないが、誰か河原温さんが麻雀をやっている風景をパーソナルにビデオに撮ってきてくれないかなあ。

こういうビデオで、多分、このアマチュア感、プライベート感、演出無し感というのは重要な要素かもしれない。この感じを鮮明に覚えているのが、ウォン・カーウァイの「天使の涙」で、通常のフィクション映画としてとられているとてもカラフルな画像で、話は続くのだが、唯一、しゃべることができない青年役の金城がはげていわゆる普通のおっさんで、コミカルなお父さんにちょっかいをかけまくる回想シーンが、アマチュアビデオ風に撮られて挿入されている。これはそれも含めて演出だが、これを見たときに感じる感覚、突然演出の裏側、舞台の裏側を見たような気になる要素みたいなものが、美術館や本の中のいわゆる正しい教科書的な歴史の一部としてのアートに少しずつ加わっていくと、これまでの骨としての歴史に、腐らない肉が加わって、アーカイブとしてさらに完成に近づくのではないだろうか。このメタファーはミイラのようなものを彷彿とさせて、ちょっと微妙だが、アーカイブとはそもそもそう言う物で、エジプトのミイラを思い浮かべるか、躍動感あふれる蝋人形館を思い浮かべるか、本物さながらの自然史博物館の剥製のジオラマを思い浮かべるかの違いで、これは完成度の違い。完成されたアーカイブは結果としてやはり「美しい」はず。

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「Style Wars」 70/80年代のNYのグラフィティー


ひょんなことから、80年代につくられたNYのグラフィティーシーンに関するドキュメンタリーの「Style Wars」を見て、とっても驚いた。NYの地下鉄が走っているシーンではじまるのだが、なんだかSFのようだ。知識として70年代、80年代のNYの街はグラフィティーで埋め尽くされていたというのを知っていても、実際にグラフィティーに塗り込められた地下鉄が走るシーンを映像で見ると全然違った。昔からNYにいる人は、昔のNYの地下鉄はきたなかったんだと言うし、その当時の人達にしてみたらグラフィティーなんて不良少年達がやるもので、迷惑だと多くの人達は思っていただろう。でも当時のヒップホップやブレイクダンスといきいきと編集されたその映像をDVDで見た感想を正直にいうと、美しい、すばらしいだった。今のNYはNYで街として安全だし、きれい(昔よりは)だし、魅力的だが、はっきり言ってこのDVDに映っているNYはずっと魅力的に見える。

日本にはグラフィティーの波は来なかったので、日本で生まれ育った僕には、なんというか写真/映像の世界だが、今でも、NYと東京の違いはと聞かれれば、NYにあって東京にないのはグラフィティーをはじめとするストリートアートです。と答える。知識としては、今のグラフィティーなんて、70、80年代のものに比べれば全然違うことは知っていても。ヨーロッパには、MTVをはじめとするテレビを通じて、80、90年代にはグラフィティーが伝播したようで、数年前に東京オフィスで手伝っていたドイツ人ウェブデザインスタジオのLess Rainは「LRPD Vandal Squad」というオンライングラフィティーペイントツール/ネットワークをだいぶ前に作ってかなり話題になったし、今でもアクティブに参加している人も多い。でも、横で働いていても、日本人の僕にはピンと来なかった。でもこのDVDを見たあとなら、なんとなくピンと来るような気がする。

今のNYのグラフィティーは、70、80年代の本当に素性を隠して町中に描いては消されていくタグの存在主張だけで成り立っていたものとは、大きく変わり、メディア/インターネット/デジタル写真/flickr/google mapなどと補強し合いながらグローバルにスター化して公然と認知され、コマーシャルギャラリーで取り扱われる「アーティスト」の活動になっている。うがった言い方をすれば、ストリートでプロモーションをして、ギャラリーでマネタイズして、最終的にはミュージアムピースになっていく。折しも、パリのカルティエ財団では11月までグラフィティー展をやっているようだ。僕は、このギャラリー/ミュージアムをにらんだ今のグラフィティーアーティストの活動もとても面白いと思うが、このDVDを見て、70/80年代のグラフィティー「ライター」達のストリートでの圧倒的な存在感、ライブ感、十代のぎりぎり感、突っ走り感みたいなのを見て、正直感動してしまった。

そんなんの、常識だよという人も多いかもしれないが、もし見たことが無い方は、是非。

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カタログで振り返る8月のNYアートシーン

8月は観光客が増えることや、夏で日が長いことで、美術館では毎日のようにイベントが行われるが、いかんせんギャラリーはお休み、またはそれほどめぼしい展覧会をやらないので、なんと言ってもスローだ。みんな1年で一番力が入る9月の展覧会の準備中である。今年は、9月10日、もしくは17日にオープニングが重なっており、どちらの日もNY中で、50−100ものオープニングがある。NYにいらっしゃる予定のある方は是非どちらかの日の6時以降にチェルシーに行かれることをオススメする。

さて、本題。今月で一番すばらしい展覧会は、ブルックリン美術館でのインカ・ショニバレ・MBEの個展だろう。ナイジェリア系イギリス人の彼の作品で特徴的なのは、なんと言っても、Dutch Wax fabricとよばれるアフリカを連想させる派手なテキスタイルをアフリカを植民地化した当時の西洋人の洋服に使ったマネキン作品。ただ、今回初めて知ったのだが、あの誰もが(アフリカ人達も含めて)アフリカを連想するテキスタイルは実はオランダ人達が、東南アジアからアフリカに当時輸入したのが広まったものだそうだ。植民地化に伴う幾重にもからまる関係、イメージを様々なビジュアルで見せる彼の作品は、表層的には知っていたが、この個展という形で見てはじめてその重層性をつかむことができた。ちなみに、彼の名前の最後につくMBEというのは、member of Order of the British Empireの略でイギリス王家から授けられたそうで、植民地を扱うアーティストに、これが授けられたことを皮肉るためにも、この称号を使っているそうだ。シドニー現代美術館、ブルックリン美術館が中心になってキュレーションをし、ブルックリン美術館のあとはワシントンDCに巡回するそうだ。カタログもよくできている。展覧会は9月20日までなので、興味ある方は是非。

Yinka Shonibare MBE Exhibition
Venue: Brooklyn Museum
Schedule: From 2009-06-26 To 2009-09-20
Address: 200 Eastern Parkway, Brooklyn, NY 11238
Phone: 718-638-5000 Fax: 718-501-6136

Yinka Shonibare MBE
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僕はこの展覧会を見るまで実は、知らなかった作家だが、19世紀後半−20世紀初頭のベルギー人画家ジェームス・アンソール(アルファベットではEnsorだが、カタカナではこう表記するようだ)の大掛かりな回顧展がアメリカではほぼ初めてMOMAで開かれている。回顧展とはいえ、19世紀後半の若い時代の作品がほとんどだが、最初の風景画、静物画からはじまり、なんとなく印象派の影響をうけながら、彼独特の目がくぼんで見えないマスクのような人々の顔がならぶ独特の絵画、ドローイング、プリント作品が並ぶ。日本のものらしき仮面や扇子などのモチーフも登場する。日本では数年前に回顧展がいくつかの美術館を巡回したようだが、知らなかった。MOMAの展覧会は9月21日までなので、まだ間に合う。
James Ensor Exhibition
Venue: The Museum of Modern Art
Schedule: From 2009-06-28 To 2009-09-21
Address: 11 W 53rd St., New York, NY 10019
Phone: 212-708-9400

James Ensor
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オルデンバーグと彼の妻で最近亡くなったCoosje van Bruggenのソフトスカルプチャーやドローイングの回顧展が、ホイットニー美術館で開かれている。プレスプレビューでの彼のスピーチも聞くことができた。食べ物や、楽器などを実際よりもかなり拡大したスカルプチャー作品で有名で、最近は、世界中で巨大パブリックアートを手掛けている。日本にもいくつかあるが、有名なのは、東京ビッグサイトの前にある巨大なノコギリは彼の作品。スピーチでは、世界中の自治体と仕事をしてプロジェクトをしていくのは大変だが、芸術史家でキュレーターの彼の妻がマネージャーとして、うまく交渉をまとめてくれたからこそやって来れたと話していた。この展覧会はもうすぐ終わってしまう。カタログは二人で二人三脚ですすめてきた世界中のサイトスペシフィックな巨大スカルプチャー作品をまとめたもの。
Claes Oldenburg and Coosje van Bruggen Exhibition
Venue: The Whitney Museum of American Art
Schedule: From 2009-05-07 To 2009-09-06
Address: 945 Madison Ave., New York, NY 10021
Phone: 1-800-WHITNEY(944863 Fax: 212-570-4169

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同じく、ホイットニー美術館でダン・グラハムの個展がはじまった。彼の作品は数年前に千葉市立美術館での個展で見たり、また直島にも一つあるし、2年前のミュンスターの彫刻フェスティバルでも見ていたが、いずれも建築と彫刻の間くらいの大きさの作品で、鏡やグレーの偏光ガラスでできた視覚的なトリックを利用した比較的最近の作品だった。今回の展覧会ではそれらの作品も多いが、それに加えて過去のテキストベースの作品、また多くの人の前で行うパフォーマンスの作品のビデオなどもある。今も昔もかわらないのは、自分と他人の視線や自意識にチャレンジしたものばかりというところ。平日に行ったのだが、真っ赤なシャツを来て作品を説明しているご本人が会場内にいた。初めて見たのだが、思ったよりも白髪で年がいっていた。これは始まったばかりで10月まで続く。
Dan Graham "Beyond"
Venue: The Whitney Museum of American Art
Schedule: From 2009-06-25 To 2009-10-11
Address: 945 Madison Ave., New York, NY 10021
Phone: 1-800-WHITNEY(944863 Fax: 212-570-4169

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最後はちょうど先週で終わってしまったが、グッゲンハイムで行われたフランク・ロイド・ライトの展覧会。彼がデザインした螺旋状のグッゲンハイム美術館が完成して50周年ということで行われた大回顧展。だが、はっきりいって展覧会はよくなかった。せっかくの50周年だが、不況ということで予算が削られたのか、オリジナルの図面ばかりの展示で、建築モデルもあまりなく、地味な内容。やはり建築展というと、立体をイメージできる映像なり、モデルがないと展覧会という形式としてはかなり弱い。これを考えるとまあ本人が存命とはいえ、オペラシティの伊東豊男展は展覧会としてかなりすばらしかった。今回唯一面白かったのが、彼の後半の人生ではかなり未来志向で、どれも実現されていないが、巨大建築や、都市計画がかなりあり、どれもこれも写真やCGでみるドバイを彷彿とさせる。資料の集まりとしての展覧会ということで、逆にカタログとしては面白いはず。
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Venue: Guggenheim Museum
Schedule: From 2009-05-15 To 2009-08-23
Address: 1071 5th Ave., New York, NY 10128
Phone: 212-423-3500

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Francis Cunninghamのサマーハウスを訪ねる






ブログが1週間もあいてしまった。先週の後半は夏休みということで、知り合いのペインターであるFrancis Cunninghamさんのマサチューセッツ州にあるサマーハウス/スタジオにご厄介になって、ゆっくりすることができた。ニューヨークから北に200キロほどで、車で3時間程度行ったところのSheffieldという地域。上の写真にもあるように、森と畑からなるすばらしく美しい田園地域。アメリカというと、自分が知っているNYのような大都市か、あとは映画で見るような、郊外の住宅地、もしくは西部の荒野みたいな風景しか思い浮かばなかったが、本当にこれは日本で生まれ育った自分にとっては全くはじめてで、しかもアメリカというイメージもうちやぶる驚きだった。彼は基本的にはNYに住んで絵を描いているが、60年代に、ここの元農地を購入して、農家の古い納屋をここに移築してからは、夏にはここに滞在して絵を描いているそうだ。上の写真は全て敷地内、森と草原で何も無いが、アメリカは広いなあと思わされずにはいられない。住んでいるのも納屋というものからイメージするよりずっとすばらしく、木製できれいに古くなった納屋で、中に入ると天井高は6メートルくらいはあり、一部をスタジオにしてある。200年以上前の納屋のようで、柱は槍鉋で削られた手の感覚が残っている堅牢なもの。

このあたりは、トウモロコシが有名な田園地域だそうだが、最近廃業する農家が多く、農家が廃業するたびに、広大な土地がNYの金持ちに買われて、最近は立派な別荘がどんどん建っているそうだ。そういう事情もあり、一見するとのどかで、辺鄙なところだが、夏になると、近くでバレエやコンサートが開かれたりもする。

彼は、所謂アカデミックなペインターで、作品はこちら、最近スタートしたブログはこちら。ちなみに、彼のブログ運営を妻がやっているのが切っ掛けでこのサマーハウスに呼んでもらえた。「カラー・スポット」というテクニックで、簡単にいうと、風景や人体を目で見て、線ではなく、色のグラデーションで視覚をとらえて、超リアリスティックで巨大なペインティングを描いていくというもの。静物、風景、宗教画、そしてヌードをほぼ実物大で描いていて、コマーシャルギャラリーで成功しているわけではないが、ブルックリン美術館にかつて併設されていた学校や、アートスチューデントリーグというアートスクールでペインティングを長い間教えてきた。彼の時代には、特にアメリカということもあるだろうが、ヌードを描いているというだけで、とても批判され、苦心してきたそうだ。若い自分たちには、その辺の感覚はわかるようでなかなかつかめない。今でも、最近までヌードのペインティングをウェブにあげるのをためらっていたそうだ。

この家には、インターネットはしっかり通っているが、今回は夏休みなので、パソコンは持ってこなかったし、来てみれば、携帯も自分の契約しているT-Mobileはこのエリア全域で全く通じなかった。久しぶりに完全にoff-gridの状態で、こんなにすばらしい自然に囲まれて、ゆっくり本を読んだり、散歩したり、彼の長い人生のほんの少しを聞かせてもらったり、もちろんアートについて話したりすることができた。

ギャラリーや、美術館で、本当に多くの、様々な世代のアーティストによるアート展覧会が目まぐるしく変わっていくのを見続けている、アートが目の前を流れていく感覚と、アートの歴史が体内に蓄積されたこの老年のアーティストとほんの数日だが、ゆっくりと過ごして静かにアートをとらえる感覚は、本当に全く違う。現代に生きる身として、どちらがいいというわけではなく、両方の感覚をしっかりとコントロールして両方でアートに接していかないとなあと感じた。日頃、メール、ウェブ、会話、twitterであふれんばかりのアートの情報に身をさらして、そして数多くのアート展覧会であふれんばかりのアートに身をさらしている。それにくらべればほとんど時間が止まっているかのような空間に身を置いてみることで、気がついたり、感じたりすることはとても多かった。目と頭とそして全身でアートをみることができたような気がする。

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