Tatzu Nishi "Discovering Columbus"

日本人アーティスト西野達によるパブリックアート"Discovering Columbus"が、来月、9月20日にニューヨークのコロンバスサークルでスタートする。セントラルパークの南西の角にあるコロンバスサークルの中心にそびえるコロンバスの像を囲んでリビングルームにするプロジェクト。毎日午前10時から午後9時まで入場でき、11月18日までで、主催のパブリックアートファンドのサイトから時間性の無料のチケットを予約する必要がある。

ちなみに、西野達さんの過去のプロジェクトには、こういうのや、シンガポールのマーライオンを囲ったホテルなんかがある。

 実は、来週からニューヨークに来る西野さんの通訳という役割で、この壮大なプロジェクトのお手伝いをすることになった。コロンバスの像は約6階くらいの高さにあって、しかも車道のサークルに取り囲まれていることもあって、実は今まで何十回とコロンバスサークルを通ってきているはずなのに、その像に気がついたことが正直なかった。このプロジェクトをはじめて知って、タイトルが"Discovering Columbus"だと聞いて、あっと驚いた。ニューヨーカーもあまり気にかけないあの像を突如取り囲むことで、文字通り皆がそれを発見するわけだし、アメリカ大陸を「発見」したとされるコロンバスは一方ではアメリカの植民地化の切込隊長であったわけで、ニューヨークでも単純に英雄とみなされているわけではない、そのコロンバスを再「発見」するわけだ。 

先週に、現場に行って写真を撮ってきた。1ヶ月前だが、すでにコロンバスの下まで足場が組まれて、作業が進んでいる。

コロンバス像は8th Avenueの南に向かって立っていて、2ブロックほど南から撮ったもの。

コロンバス像に向かって左側にはタイムウォーナービルがあって、その3階から撮ったもの。

コロンバス像の向かいにあるデザイン美術館の9階にはセントラルパークを一望できるレストランが入っていて、そこからコロンバスの頭を撮ったもの。 

まだスタートの1ヶ月も前ということで、日本語のメディアではあまり紹介されないが、ニューヨークのメディアでは足場ができて、視覚的に目立つこともあって、アートメディアだけでなく、新聞、テレビなどで賛否両論の意見が紹介され、大騒ぎになっている。これは美術館やギャラリーで見せる通常のアートとの一番の違いで、街のシンボル(それが今まであまり気にかけられていなかったにせよ)に介入するのだから、日頃アートを見る人以外の一般の人々から大きな反響が巻き起こる。

 いくつか記事をひろってみると。

 NY Times 
さすがニューヨークタイムズというべきか、一連の報道の皮切りはやはりニューヨークタイムズだった。アートの批評というよりは、社会面よりというか、プロジェクトと市のやりとりなど、これを実現するにあたってのロジスティクス的なチャレンジを紹介するもの。コロンバスがイタリア人だったということもあって、イタリア系アメリカ人達のサポートも、そして反発も多いようで、記事の最後はこのプロジェクトに反対の人の意見で締めくくられている。
しかし、フランク・ベルヌッキオ氏はニューヨークのイタリア系アメリカ人の多くは、このリビングルームを啓示的だとは思わないと考えている。 ベルヌッキオ氏は、イタリア系アメリカ人の伝統のためのブロンクスにある非営利団体、エンリコフェル二文化委員会の理事メンバーで、これは、パブリックスペースに関するブルームバーグ政権のばかげた修正主義の一例であり、「この計画はコロンバスの彫刻を何の理由もなく隠すだけだ。世界的に有名なタイムズスクエアの象徴的な交差点に、郊外の芝生用ガーデン家具を並べていることを見ても、問題がよく顕れているよ。」と話した。
ブルームバーグ市長への反発とよくある現代アートぎらいの人の「なんだこれ」というような方向性かなと。

 Huffingtonpost 
これは記事自体はプロジェクトを紹介するシンプルなものだが、その下のコメント欄が面白くて、「コロンバスの記念にどうして隠してしまうんだ」、「見た目が良くない」、「すでに混んでるコロンバスサークルにこれを見にさらに大勢くるなんてまっぴらだ」という意見が出ている。

  DNA info 
ここでは、入場者予測が10万人を見込まれているとの記事。2ヶ月で10万人は結構すごい数だと思う。1日2000人?

  abcニュース(テレビ)
割とニュートラルに紹介しているけど、醒めた街の人々の意見も。

  CBSニュース
これはタイトルからして煽っていて「コロンバスサークルのパブリックアートプロジェクトがあるイタリア系アメリカ人達を怒らせた」と。上のニューヨーク・タイムズにも出ていたベルヌッキオ氏が
ニューヨーク市の心臓を打ちのめすようなものだ。イタリア系にとっても、この国に来た全ての移民にとってもだ。一種の冒涜のように感じる。これはアンチイタリア系というよりは、アンチグッドテイストだ。
と話せば、One Voice Coalition(イタリア系アメリカ人団体、イタリア系への偏見をなくそうというのがミッション?)のアンドレ・ディミノ氏は
この10月にはニューヨーク市でコロンバスデー記念パレードがあるのに、その期間中に、彼らがアートと呼んでいるリビングルームをコロンバス像にかぶせてしまうんだ。これは不名誉以外の何ものでもない。彼は120年間誰にも邪魔されないでそこにたってたんだ。今になってこれをやる必要があるのか?これはイタリア系アメリカ人コミュニティへのいつもの叩きだ。
と、脊髄反射というかなんというか。
これに対して、好意的なイタリア系団体の人として、フランク・フサロ氏は
いくつかの反対意見を聞いたけれど、全く理解できない。アートは、美のように、人の好みは様々のはずだ(蓼食う虫も好き好き)。しかもこのプロジェクトの一部は彫刻の修復にまわされるというのに。
と憤慨気味。

  nbcニュース
上のアンドレ・ディミノ氏が
あいつらは他の彫像にこのようなことをするとは思えない。どうしてイタリア系アメリカ人ばかりがいつもこういう風に扱われなければいけないのか?中のテレビで「ジャージーショアー」(イタリア系アメリカ人のステレオタイプが物議をかもした大人気リアリティショー)まで見せるつもりなんじゃないか?
と。

これらに対してアートメディアのHyperallergicは皆が楽しみにしているこのプロジェクトに怒っている人がいるそうだと、CBSのニュースをあげ、中のアンチグッドテイストだに対して「全てのだめなアートに半論文出していたら、皆が読みきれない数になってしまうね。」と皮肉り、記念パレードに関しても「パレード自体が5th Aveでやるわけでコロンバスサークル通らないのに」と批判し、パブリックアートにクリエイティブに対応したいものだと締めている。

もう一つアートメディアのart infoでも、「パブリックと名のつく多くの物が大都市の人々の同化を即すものであるのに対して、このプロジェクトはその逆で、特別で、親密で、個人的で、思いがけないインタラクションをもたらすものであり、誰もが登ったことがないコロンバスサークルの6階部のリビングルームに登れるなら大賛成だと結ぶ。」

割とあえて反対意見を取り上げてきたけれど、基本的には皆、何やら面白いことがコロンバスサークルで起こっているらしいと興味津々で、メディア的に煽るために反対意見をあえて探してくるというような感じがする。ニューヨーク・タイムズの記事の次の日には、チケットの予約がしたいとパブリックアートファンドの電話からメールからすごかったらしいので、大きな期待があるということだろう。アートプロジェクトが始まる前からこんなにメディアで取り上げられるのはさすがのニューヨークでもそんなにないので、すごいなあと思うだけでなく、通訳間違えたら大変だなあと、びびってしまうところ。

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