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知らないアートを見て、理解するまでのプロセス(日本のアートが世界に理解されるプロセス)

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昨日は、終日氷点下という極寒の中、友人のTakashi Horisakiさんが参加するSculpture Centerの グループ展 のオープニングに行って彼の素晴らしい新作を見たあと、マンハッタンのラーメン屋で晩ご飯を食べていると、となりの若者4人組みがアートについているのを耳にして聞いていると、多分ビジネス系であろうと思われる4人の内の一人の女性が、最近見た抽象絵画の展覧会のことを話したあとに、別の男性が「抽象絵画ってモダンアートのこと?モネとかああいうのだよね?最近友達と話していて合意に達したんだけど、モダンアートって詐欺みたいなもんだと思うんだ。」ていう返しをしているのを聞いて、苦笑しつつも、よく考えてみるとこの会話はアートに関わる人にとってみれば文章自体が語義矛盾で、ちぐはぐだと思うかもしれないけど、ある程度の教育を受けていても普通の人の感覚ってそんな感じなのかなあとなんだが少し考えさせられた。 いわゆる「現代アートはわからない」ということとほぼ同じ思考プロセスだと思うし、また自分のような深くアートに関わっている人にとっても部分的に、自分が知らない、自分が見たことがない作品、作家を見るときに、意識的、無意識的にこれをやりがちだ。これを考えていくと、そもそも逆にある作品、作家をいいと思うこと、わかることってどういうことだろうなあと自分でも日々考えていることにつながる。また、その延長として、どうすれば日本のコンテンポラリーアートは世界に入っていけるのかということにも通じると思う。 自分が世界有数のアートアドバイザーのアラン・シュワルツマンに 美術手帖 2012年 01月号 でインタビューさせてもらった時に、誌面の都合で、泣く泣くカットせざるを得なかった箇所で、実はアートを見るプロ中のプロの彼が、あまり好きでは無かった村上隆の作品を本当に理解できたと思うにいたるプロセスと、(村上隆と違って)世界に知られていない日本の作家が世界のアートマーケットに入っていく難しさについて真摯に語ってくれた。これは今の日本のアートシーンが海外で受容されるための大きなヒントになるように感じた。誌面ではP104からP109でアートアドバイザーについて基本的なことと、彼の2つの大クライアントについて、そしてそのうちの一つのアメリカのコレクターが具体の白髪一雄などをコレクシ...

美術手帖2012年1月号「Global Art Market Now: 世界のアートマーケット」に執筆

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明けましておめでとうございます。 Photo by Aneta Glinkowska 現在、書店に並んでいる美術手帖1月号で、なんと総計27ページ分も担当したので、ここで簡単に紹介させていただいて、是非ご覧いただければと。この号は表題が「Global Art Market: 世界のアートマーケット」で、美術批評が中心であった美術手帖としてはかなり珍しいアートマーケットについての特集号。書店にならんでほぼ1ヶ月弱が経ち、もう次号が並びそうなタイミングだけれど、編集長によると内容についての評判も、そして売り上げも通常よりいいとのこと。日本でもアートマーケットについての情報がかなり強く求められているということだろう。 美術手帖 2012年 01月号 [雑誌] posted with amazlet at 12.01.14 美術出版社 (2011-12-17) Amazon.co.jp で詳細を見る 11月に村上隆の呼び掛けで行われた震災復興のためのチャリティーオークション「New Day」について、2000年以降のアートマーケットの概要について、アートマーケットにおける重要人物へのインタビュー、そして成長するアジアマーケットについてと幅広く、そしてしっかり掘り下げて現状のアートマーケットがわかる内容になっている。 その中で、自分が担当したのは下記7本計27ページの記事。 - New Day 「プレビュー記者会見レポート」P.17  開催1週間前に行われたプレビューに出席していた奈良美智、タカノ綾など作家紹介をメインに。 - New Dayのクリスティーズ担当者「Koji Inoue」へのインタビューP.20-21  クリスティーズのスペシャリストにNew Dayについてと、そもそもスペシャリストの仕事について。 - New Day開催前に雨ニモ負ケズの朗読を行った俳優の渡辺謙へのインタビューP.21  はじめてオークションに関わったことについてなど。 - New Day主催者の村上隆へのインタビュー P.23-29  今回のプロジェクト、村上隆にとっての日本とアメリカについてなど幅広く。 - 「数字で知るアートマーケットの規模」P.32-35  例えば、現状の世界のアートマーケットは4兆円程度だが、GDP比では1割弱の日本は1000−2000億円程度であることなど、マー...

ジェフ・クーンズのインタビューに考えさせられる。

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The Art Newspaperがジェフ・クーンズに今ロンドンのサーペンタインでやっている個展にひっかけてインタビューをしていて、その中身がいろんなことを考えさせられてなんというかすごかったので、要約しつつ、順につっこんでいきたい。翻訳が主目的ではないので、かなりラフに訳している。興味があれば全文お読みください。どの項目も面白い。 インタビュー記事全文は下記。 "Jeff Koons on his Serpentine show, his inspirations and how his studio system works" The US artist reveals what he hopes to communicate to the public through his work Touring Jeff Koons's gigantic Chelsea studio in anticipation of his big summer solo show at the Serpentine in London (until 13 September) is rich in discombobulation. This is partly because the place is just so large: endless cavernous rooms, one after the other, teeming with workers and assistants, more than 120 of them, all hard at work in intense silence producing paintings and sculptures, maquettes and studies, a high-tech laboratory somewhere between a James Bond set and a Warholian super-studio. チェルシーにあるクーンズのスタジオを案内してもらって、驚きっぱなしだった。というのも、とにかく巨大で、洞窟のように部屋から部屋へと再現なく続いており、120人以上の従業員が静かに黙々と絵、彫刻を制作したり、リサーチをしたりしている。いわば、ジェームスボンド...

101 TOKYO 2009 総括

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4月の頭の 101 TOKYO が終わり、4月の末にはNYに帰ってきてあっという間にもうすぐ6月というところで、101 TOKYOからも正式に 結果報告プレスリリース も配信されたこともあり、2008、2009年両方の運営に携わった者として総括しておこうと思う。(なかなか筆が進まず、遅くなってしまった。) セールスとしては、2008年が約30のギャラリーが1億円売り上げたのに対し、2009年はほぼ同数の30のギャラリーの参加で、具体的な数字は公表していないが、前年度に対して低調であったとのこと。(あくまでこのセールスというのは各ギャラリーのアート作品の売り上げの数字の総額で、アートフェアとしては入場チケットセールスと参加ギャラリーからの参加フィー、スポンサーからの協賛金が収入で、上記の所謂フェアのセールスというのはよく誤解をうむ。)同時開催のメインフェアである アートフェア東京 が昨年と横ばいの10億円というレポートを出しているが、この数字をそのままうけとっても、フェア自体の床面積、参加ギャラリーが増加したことを考慮すれば、両フェアとも昨年割れというところだ。昨今の経済事情や、世界中の他のアートフェアー、オークション、ギャラリー/美術館のリストラなどのニュースを考慮に入れると、東京もやはり世界の情勢の影響は免れないという結論だろう。 ただ、具体的な数字はないものの、フェア運営者として気がついた2008年と2009年の大きな違いというのは、他のアジア諸国からのコレクターが格段に減ったということだ。自分の経験、アート関係者との会話の中ででたのが、東京のアートバイヤーが買わなくなったというよりは、ここ数年急増していたアジアのバイヤーが急減したことだ。国別に見ると、国内のアートマーケットが大きく冷え込んでいて、対円でウォンが下落した韓国のコレクターがめっきり減り、また、オリンピックも終わり、高止まりしていたポップペインティングの熱が冷めてアートマーケットが一段落したとされる中国からのお客さんも少なかったようだ。唯一健闘していたように見えるのが、5月中旬にもYoung Art Taipeiという新しいコンテンポラリーアートフェアーがはじまった台湾からのバイヤーだろう。そういう意味では東京は、もちろん不景気の影響は多少あるだろうが、新しいコマーシャルギャラリーもまだまだ増えてお...

Art Basel ディレクターのMarc Spieglerさんのトーク

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少し前になるが2週間前の1月16日(金)に森美術館でArt Baselのディレクターである Marc Spiegler氏のトーク があり、101 TOKYOをやっている手前もあり聞きにいってきた。 1時間半ほど、Art Baselとは何か、この金融危機からはじまる不況の中Art Baselはどうなっていくのかなどを彼が割とテンポよく説明したあと、30分ほど質疑応答があるという形式で、250名の定員のところ約8割ほどうまっていただろうか。 率直な感想としてはかなり物足りなかった。なんというかArt Baselのディレクターという立場をふまえすぎた論調で、所謂ポジショントークに終始してしまい、不況であるが、これによってSpeculatorの時代は終わり、本当に良いものしか売れない時代になった。ただし、我がクライアントの世界トップレベルのギャラリーはそれほど大変ではなく、また世界トップの我がArt Baselは安泰である的な話になってしまい、2008年のマイアミバーゼルもギャラリー達が以前よりもずっと良い作品を持ってきていたので、売れ行きも良かった的なことを言っていて、いくらなんでもそれは、言い過ぎでしょという感想を持った。また、会場からの質問にもかなり表層的な受け答えになってしまい、ぶっちゃけトークはできないにしても、このご時世そんなにいい格好しないといけないのかねえと思ってしまった。同様の内容のインタビューが Japan Timesに上がっている のでご参考までに。 彼のトークの直前に101TOKYOやっていることもあり、ご挨拶程度に紹介していただいて10分ほど立ち話をしたのだが、新しいフェアをやる人へのアドバイスの一つとして、カッティングエッジなギャラリーだけを集めたフェアをやると見栄えはいいけど、一定数のコレクターしかこない中で、そのフェアの中では客の奪い合いになってしまうため、いろいろな別のジャンルのギャラリーをバランスよく呼んでくるのが良いよとのことだった。確かにBaselはコンテンポラリーだけでなく、モダンマスターのセカンダリーギャラリーの老舗のようなところも多数出ており彼のいわんとするところは分かるのだが、日本でそれをやるとなるとアートフェアー東京のような形になる。ただ、日本のコンテンポラリーアートシーンと、日本画、古美術アートシーンの間の人的、美的、倫理...

マイアミのことなど

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Photo: Aneta Glinkowska 12月の第1週目はマイアミのフェアに参加して、1日だけNYに泊まってスーツケースを入れ替えて10日には東京に帰って参りました。その後あっという間に2週間以上が経ちました。本当に早いです。忘れないうちにマイアミのことを少し。 盛り上がりでは間違いなく最高潮だった昨年に比べればかなりおとなしくなったとはいえ、主立ったフェアでも、バーゼル・マイアミ(メインのフェア)、Pulse(中堅)、NADA(若手)、Scope(若手)、Aqua(2カ所)、Bridge(2カ所)、Art Asia(アジア系)、Art Miami(モダン系)、Photo Miami(写真)、Design Miami(デザイン)、Red Dot、Artist Fair、ink Miami(プリント系)、、、と挙げれば20くらいはフェアが行われていたようです。 Photo: Aneta Glinkowska 僕たちは、NY Art Beat / Tokyo Art BeatでScopeのメディアブースを出していたので、1週間いたとはいえ、他のフェアをじっくり見て回るのはなかなか大変だったのですが、オープニングなどを中心に主立ったところは見て回ることができました。ちなみに、 Scopeの様子 と NADAの様子 はNYABlogにフォトレポートが上がっているのでご覧ください。 全体としては、やはりかなり厳しかったようです。フェアが出すラップアップレポートや、メディアのレポート記事などをさらっと見る限りはそれほど悪くなかった、中には至上最大入場者数とか言っているものもあるのですが、まあ、それはなんというかアートシーン的なやせ我慢でしょ。という感じ。もちろん、メインのバーゼルの中のグローバルに巨大なギャラリーなどは売れ行きはそれほど悪くなかったそうですが、それはそもそも去年とかだったら買いたくてもお金あるだけじゃあ買えなかった級の作品が、今年はフェアの2日目に行っても買えるようになったというような感じで、直接の金額には現れていないけれども、ある意味では売り上げ減一歩手前みたいな状況ですよね。メインのバーゼルでも日本を含む海外ギャラリーはかなり苦戦したようですし、NADAやScopeの若手ギャラリーもかなり売り上げは悪かったようです。 去年のマイアミに行っていないので...

ダミアン・ハースト(Damien Hirst)のオークション結果

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前のポストからかなりの期間があいてしまった、、、。通常は自分の経験からのポストしかしないようにしようと思っていたのだが、今回のダミアン・ハーストについては、大きな出来事だし、自分の考えをまとめるためにも、オークションに行ったわけではないが、オンラインのソースを元にしたまとめ記事的なことをやってみようと思う。 9月15日 、 16日 、つまり昨日、今日とロンドンのサザビーズで、ダミアン・ハーストの新作だけの異例のオークション"Beautiful Inside My Head Forever"が開催された。ここ数年で制作された計223点が15日のイブニングセール、16日のデイセールで競売された。新作とはいえ、モチーフは見覚えのあるものが多く、超よくできたエディション作品を新しく制作して彼の回顧展をオークションで行うというような趣。ここまでくるとエディション作品とユニークピースの境界線が全然分からなくなってくる。 村上隆の大掛かりな個展が、LAMOCAからスタートして、ブルックリン美術館を経て、これからヨーロッパではじまるようだが、作品はほとんどが、大コレクターのコレクションで、中には出品されていた作品(と思われる)「マイロンサムカウボーイ」が今年の5月にNYサザビーズで16億円で落札されていた。個展としてしっかりパッケージされていて作品もあるのに、作品価値が高く、保険代、輸送費、インスタレーションコストなどが高騰しすぎて日本の美術館には巡回できないそうだという話を聞いたことがある。今、誰かがダミアンハーストの大がかりな個展を美術館で開こうと思ったら、コレクターが作品を喜んで出してくれても、多額の費用がかかって実現するのは困難かもしれない。作品を見るステージ作りと作品を売るステージ作りの金銭勘定の大きな違いが、ビエンナーレなどの国際展よりもアートフェアーのほうが盛り上がってしまう場合があるという構造を作り上げ始めて、さらにそこをショートカットした形で、今回の個展形式、新作オークションという前代未聞のやり方が成り立っているのだろう。 さらに、ダミアン個人のアート活動として、去年のダイアモンドのスカル作品くらいから、直接的に、お金、マーケットという構造へのチャレンジというような活動を行ってきており、その延長線上ととらえることもできる。ここ2年程度で作った2...

SCOPE Art Fair Hamptons に行ってきた

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SCOPEアートフェアーは、3月のNYのArmory Showや、6月のバーゼルのアートフェアーなどと合わせてサテライトアートフェア的に開催されており、毎年6都市を廻っている。1年のうちの開催回数という意味では一番多いアートフェアーかもしれない。今回は先週末(7月24日ー27日)にニューヨーク郊外の夏の保養地である East Hamptonで開催されたSCOPE のメディア向けツアーに参加した。これは他の都市のSCOPEアートフェアーと違って、別の大きなアートフェアのサテライトではなく、SCOPE単体での開催。 Hamptonsは、マンハッタンの東側に位置するロング・アイランドという文字通り細長い割と大きな島(150キロくらい)のほぼ東端に近いところにあるエリアで、ビーチがずっと続き、ニューヨークのお金持ちのサマーハウスが立ち並んでいるエリア。マンハッタンから車、バス、電車で2時間程度のところにある。このエリアにスペースを持っているギャラリーもあり、夏の間はマンハッタンのギャラリーは閉めて、ハンプトンのギャラリーをあけるというかたち。アメリカ人はヨーロッパ人と違って、リタイアしていない限り、夏休みは1ヶ月以上というような人はそれほどいないだろうから、平日は市内で普通に仕事して、週末は毎週サマーハウスで過ごすというような感じの人も多いらしい。 12月にアートフェアーが行われるマイアミは避寒地で、やはりセカンドハウスが立ち並ぶところだし、お金持ちの移動にあわせてギャラリー移動まではできないのでアートフェアーを開催という形になっている。 僕たちはハンプトンに行ったことがなかったし、今年は夏休みを取る予定もなかったので、丁度良い機会とばかりに、アートフェアーに行った後、2、3日その辺でゆっくりしようと思っていたのだが、それが大きな間違い。前日に近くのホテルやB&Bに電話しまくるも、どこも一杯か、空いていても一泊$300とか。別にアートフェアがあるからというわけではなく、夏のピークシーズンの週末だから当然だとのこと。すると丁度プレビューの日にSCOPEの主催で市内のアートメディア向けの1日日帰りツアーをするという知らせを受けて、渡りに船とばかりに参加することにした。旅費も食事代もアートフェア持ちという僕らのような貧乏アートメディアにはありがたい企画。今年101 TOK...

アメリカのアートコレクター予備軍(日本も?)

The Contemporaries という会員制アートクラブ(片仮名にするとなんだか怪しいが)というのがあるそうだ。ハーバードのビジネススクール出の2人のアート好きが2003年に始めたそうで、招待制、今や正メンバー500人、準メンバー3500人にもなるそうで、20代後半から30代の若いプロフェッショナル(弁護士、投資銀行員、その他ビジネスマン)がアートに親しみ始める場の提供をするメールベースのクラブのようだ。コレクターを招いてのレクチャーや、ギャラリーツアー、パーティー、メンバー向けオークションなどを企画してメールで参加を呼びかけ、参加希望の人は予約をして現場にくるという単純なクラブだが、参加費$100くらいの企画もとても盛況のようだ。主催側がアートのプロではなく、同じような世代の愛好家であるということで、美術館などの会員になるよりも敷居も低く参加しやすいということだ。上記サイト内右のWall Street Journalの記事が分かりやすくて面白い。 ここでよくある、アメリカには若い人にまで金持ちでアート好きの人がいていいなあ、それに比べて日本は、、、と言ってしまえばそれまでだが、The Contemporariesの参加者と同じような想いを持った人って、もしかしたら日本にも相当数いるんではないだろうか、なんとなくとっかかりがないけれども、美術館に行って作品鑑賞するだけでは物足りないとか、もっと単純に、車の次に何買おうかななんて思っているような若いプロフェッショナルの方々。どなたかいかがですか?こういう企画。雑誌だって アート特集の方が売れる時代 だそうだし。 アート業界の人がこれを企画するとなんだか広がりが無くって、胡散臭くなってしまうんだろうけれど、愛好者の立場の人がカジュアルにうまく企画するととてもスムーズに行くような気がする。日本のギャラリーも、オークションハウスも、美術館もこういう企画はウェルカムだと思う。 今の日本のアートシーンは本当にちょっとしたことでがらっと雰囲気が変わるような気がしている(とても直感的に)。アート業界内だけで回ってしまって、なかなか発生してこなかったアート関係者と"積極的アート愛好者/コレクター予備軍”(単純な美術館来場者ではない)の間のコミュニケーションが生まれ始めることで正のスパイラルが一気にまわるかもしれない。そ...

The Affordable Art Fair 2008にいってきた

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今日の夕方、 The Affordable Art Fair 2008 (手の届くアートフェアとでも訳せるのかな)というアートフェアのプレビューに行ってきました。価格帯が$100から$10,000ということで、世界中のトップギャラリーが集まる所謂アートフェアーとは違って、割りと和気あいあいとしていて、、、と書きながら、これって、基本的には自分が今年の4月に関わった101 TOKYOの価格帯とほぼ同じだなと気がついた。よく考えたら、日本の多くのコンテンポラリーの作品はほぼここの価格帯に入るんじゃないだろうか。NY以外にも世界6都市で開かれているそうだが、NYにでているのはアメリカのギャラリーがやはり多かった。作家も、ギャラリーもそれほど有名という訳ではなく、作品の質もピンキリである。そう考えたら、日本のコンテンポラリーアートは絶対に割安だろうと思う。 とはいえこのアートフェアーの特色は、良くも悪くもカジュアル感だ。ポスターに使われているイメージも、安い中華テイクアウトの包装ボックスやコーヒーのテイクアウト用のカップを使っておしゃれに仕上げ、肩肘張らない雰囲気作りで、それほど日頃アートになじみがなさそうな若いお洒落ビジネスマン、ウーマン的な人たちが会社帰りにちょっと寄って買い物していくという感じ。 フェア会場内には、ラッピングコーナーがあって、洋服でも買うように、とても幸せそうな顔をした人々が、ペインティングや、小規模な彫刻作品をブースからここまで手で運んできて、係の人と簡単に梱包してそのまま家にもって帰っていく。みんなうれしそうで、会場の周辺には、丸めたドローイングやキャンバスを持って帰る人々の姿が目立つ。ちょっと高めのポスターを買う感覚で、なんというかニューヨークのアートマーケットの層の厚さというか、間口の広さを感じた。作品を眺めて少しがっかりしていた自分が、なんだか毒されているような気さえした。 日本にだって、「夏になったから床の間に新しい掛け軸でも買おうか。」そういう気分は自分の親の世代にはあまりないが、祖父母の世代にはあったんじゃないかというのがふと頭をよぎった。

ギャラリーの中国進出加速

それこそ昨日のポストからもリンクしたのだが、4月の末にPace Wildensteinの北京進出が NY Times はじめ大きく報道され、5月末にはうわさには聞いていたが、 Gagosianの香港進出 が伝えられ、今日は、束芋、サワヒラキなど日本人作家も擁するJames Cohanが上海に進出するとのプレスリリースが届いた。 日本のギャラリーも、東京画廊が北京に以前から、そして今年に入って、ミヅマギャラリー、ワダファインアートが支店を開き、上海にはツアイトフォトサロンが進出している。 中国進出と一言で言ってもすでに三都市。北京や上海は税制上は日本以上に不利なようだが、それでも多数の中国人コレクターがいるのだろう。そしてGagosianの人に少し聞いたのだが、香港は、オークションが行われる都市で、税金が格段に優遇されていて、また地理的に香港人だけでなく東南アジアのコレクターにとってとても都合のいい場所だという。 東京でも最近、税制の優遇が認められる金融特区が計画されているようだが、多くのアート関係者の念願である芸術特区も同時にできないものかなあ。東京でなくとも、横浜なんかいろんな意味でいいと思うのですが。

運慶と村上隆

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今年の3月末にニューヨークのクリスティーズで運慶作の木造大日如来坐像が12億5千万円で真如苑に落札されたときには、「日本の国宝級の美術品が海外流出を免れた。」、「海外でのオークションの日本美術作品の最高額。」とかで、日本のメジャーな 新聞 、テレビなどが大きく取り上げた。 その2ヶ月後に、同じニューヨークのサザビーズで村上隆のMy Lonesome CowBoyが16億円で落札されたときには、メジャーなメディアではさらっと流す程度、ブログなどでは、フィギュアに16億円なんて西欧人の考えることはよくわからんというような反応が多かったような気がする。 この2つの出来事を並べたときに、よく考えたら、少なくとも現時点で、村上隆の落札額が国宝級の運慶作品を上回っていること、さらに現在ブルックリン美術館で開かれている村上隆の個展に出ている彼の大作のほとんどの所有者が西欧人であること(高橋コレクションの所蔵作品が入っているのを除いて)を言い換えれば、国宝級の作品を上回る価格がついている日本人作家の作品の大半がすでに海外流出しているということでしょう。 私個人として村上隆の作品をとても気に入っている訳ではないのですが、それでも百歩譲ってこの2つの事柄に対する世の中的なリアクションは少しおかしいと感じました。 オークションはあくまで結果であって、その金額を説明するのは基本的にはそれを買った人にしかできないと思うのですが、美術作品だけでなく、日々食べている魚の値段も基本的にはオークション形式で価格形成されているわけで、マーケットを形作るかなり有力な方法なわけです。今回の結果、あるいはもう少し一般的なトップレベルの現代アート作品の取引価格について、少なくとも日本のメジャーメディアの文化欄を担当されている方はある程度受け入れた上で中身のある分析をしてもらえればなあと思います。 その中では、 産経のこの記事 は一番つっこんでいる気がしますが、文化欄担当の方がかいていらっしゃるわけではなさそうですね。日本の文化にとって大きなインパクトがある出来事だと思うのですが。

アート・寄付・税金

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月島にある都内ではほぼ最大のギャラリースペースを持つタマダプロジェクト ミュージアムで6月1日(金)からスタートするスペイン人アーティスト ジャウメ・プレンサの展覧会のプレビューに伺った。 会場に入ってまず驚くのが、日本のギャラリースペースでは考えられないくらい大きな作品。天上高は5メートル程度あるだろうか。そして、通常のギャラリー1つ分くらいの部屋が5つ以上あるかなり贅沢な会場で、このような展覧会は年に1・2回というから時間的にも贅沢だと言える。 今回この展覧会について書きたい内容は、会場の大きさについてではなく、この展覧会の入場収入の一部がTokyo Art Beatに寄付していただけるということについてである。具体的には会場入り口に左の写真のようなボックスがおいてあり、入場者はTokyo Art Beatもしくは、世界の医療団 のどちらか寄付を希望する方のボックスに入場料金を入れていただき、半額が寄付されるという仕組みになっている。寄付を受ける側の責任者がこのような文章を書くのは少しおこがましい気持ちもするが、芸術振興を目的としたNPO法人にて日々TABを運営している者として、寄付ということについては考えることも多いので、一度いい機会と書いてみる。 Wikipedia(2007年5月29日付け)によると「 寄付 (きふ)とは金銭や財産などを公共事業、公益・福祉・宗教施設などへ無償で提供すること。」とある。この寄付先に芸術施設が入っていないのがやや残念だが、もちろん、芸術に関わる組織にも寄付はかなり行われている。当の Tokyo Art Beatも寄付をいただいている 。ただし、まだまだ年間の運営費用(全体でも雀の涙)の5%程度にとどまってはいる。 よく、日本では先進諸国の中でも寄付が少ないといわれている。実際の数字は調べる必要があるが、多分間違った観察ではないような気がする。寄付の文化があまり無いというのと、寄付者への税制上の優遇が少ないというのが良くあげられる理由である。 世界の中でも特に、アメリカではアートへの寄付が盛んであるといわれ、その影響でアートマーケットさえも巨大化しているとも言われている。 寄付者への税制上の優遇については、この ページ がとてもうまく説明してくれている。つまり、寄付者がある特定の法人に寄付をした場合は、その分が所得から差し引かれ...

アートマネージメントよりアートアントレプレナーを!

日本では少なくとも90年代に入ってから“アートマネージメント”という言葉がさけばれ始め、コンセプトとしても、活動としても、学問としても、少しずつ定着してきているようだ。大学、各種スクールでもこの分野のことを学んでいる人は相当数いるのではないかと思う。 ただ、アートマネージメントを学ぶ、教えるということ自体にしっくり来ないという声もよく聞く。 なぜか? 多分、理由は単純で、何よりもプラクティカルな分野であるにもかかわらず、仕事がほとんど無かったからだ。バブル崩壊以降予算が切り詰められてきた美術館、まだまだ個人経営のギャラリーなど、新たな雇用があまり産まれてこなかったにもかかわらず、そこで活かすべき人材の育成は毎年順調に増えてきているような気がする。 少し順番を変えてみるべきかもしれない。 そう。 今、本当に必要なのは仕事、雇用を創出することができるアートアントレプレナー(企業家)だ。今、日本のアート業界は膨張傾向にある。ギャラリーの数も増えてきた。先月の アートフェアー東京 も 前年度比5倍程度の売り上げをあげている 。しかし、これらに関しては 海外マーケットとの内外価格差 に起因しているところも多分にあるといえるだろう。 この内外価格差があるうちに、そのトレンドを追い風に、今が、新しくアート関連の事業、仕事をみんなが始めていける大きなチャンスなんじゃないかと思う。多分、アートアントレプレナーに必要なのはアートに関する深い知識ではなく、アートを面白いと思う気持ちとチャレンジ精神くらいなもの。 マネージメントが力を発揮するのは安定成長に入ってから。 ここが不便だ。こういうのがあればいいのに。こういうアート施設があると楽しいのに。そう思ったらあとはそれをやり始めるだけです。