ジェフ・クーンズのインタビューに考えさせられる。



The Art Newspaperがジェフ・クーンズに今ロンドンのサーペンタインでやっている個展にひっかけてインタビューをしていて、その中身がいろんなことを考えさせられてなんというかすごかったので、要約しつつ、順につっこんでいきたい。翻訳が主目的ではないので、かなりラフに訳している。興味があれば全文お読みください。どの項目も面白い。

インタビュー記事全文は下記。
"Jeff Koons on his Serpentine show, his inspirations and how his studio system works"
The US artist reveals what he hopes to communicate to the public through his work

Touring Jeff Koons's gigantic Chelsea studio in anticipation of his big summer solo show at the Serpentine in London (until 13 September) is rich in discombobulation. This is partly because the place is just so large: endless cavernous rooms, one after the other, teeming with workers and assistants, more than 120 of them, all hard at work in intense silence producing paintings and sculptures, maquettes and studies, a high-tech laboratory somewhere between a James Bond set and a Warholian super-studio.


チェルシーにあるクーンズのスタジオを案内してもらって、驚きっぱなしだった。というのも、とにかく巨大で、洞窟のように部屋から部屋へと再現なく続いており、120人以上の従業員が静かに黙々と絵、彫刻を制作したり、リサーチをしたりしている。いわば、ジェームスボンドのセットと、ウォーホールのスタジオの中間のような感じ。


120人もほぼフルタイムで雇っていることはなんとなく知っていたが、よく考えてみるとすごい。人件費だけで年間10億円くらいいくだろう。中規模の優良企業なみだ。この辺はダミアン・ハーストや、村上隆もある程度の規模の大小はあれ、同じようなことなのだろうが、これって、歴史上こんな大きいアーティスト工房ってあったのだろうか?ラファエロなんかの時代も工房で巨大ペインティングを描いていたんだろうけど、ここまでの規模を維持できるのは、グローバルな現代ならではなんじゃないだろうか。しかしこれを維持するには、クーンズだけで年間50-100億円くらい売り上げが必要で、それらを扱っているディーラーが同じくらいとってるとなると、世界中の人達はクーンズ作品をコンスタントに年間100-200億円分くらいは買っていることになる。ここ10年くらいはこの調子だったとしたら、1000億円くらい売り上げてるってこと?これありえるのかな???マジ?誰?オークションじゃなくて、プライマリーだよね、これ。なんか本当にアーティストっていうのと数字のイメージが合わん。

Indeed it is when Koons runs one briefly through a selection of his art collection on his computer—from the Poussin on loan to the Metropolitan which he keeps as his screensaver, to the Manet, the Courbet, the medieval wooden sculpture, the Pharaonic head, the Magritte and Dalí paintings, the major Picassos—that one realises not only just how rich he must be but how deep his interest is in art history and how obsessively he can talk about one image in intricate detail.


クーンズが持っているコレクションの写真をパソコン画面上で見せてもらった。スクリーンセーバーに使っているのは先日メトロポリタン美術館に貸し出したプッサンで、以外に、マネ、クールベ、中世の木製の彫刻、ファラオの頭部、マグリットやダリのペインティング、ピカソの大作なんかがあり、彼自身がかなり金持ちであるだけでなく、彼が芸術史にどれだけ深い興味をもち、それぞれのイメージについてどれだけ彼が語り込めるかに驚く。


クーンズがオークションなんかで古い有名な作品を買っているのはたまに読んでたけど、そんな持ってんの?彼自身アーティストとして気持ちは分かるけど、ここもなんというかいわゆる成功したアーティスト像というよりは、成功したビジネスマン、資産家という感じ。もちろんジェフ・クーンズってそういうアーティストだよねっていうのは今までも多くの人が言ってきたことだけど、なんかなあ。今アーティストって成功するってすごいことであると同時に、アーティストの才能だけじゃ本当にここまでは持って来れないよね。

The Art Newspaper: Your show at the Serpentine is of the “Popeye” series of paintings and sculptures, which you began in 2002, but a lot of the works are being made here, right now.

Jeff Koons: Some works have been here since 1994, it can take a very long time to complete a series. The “Popeye” series began in 2002 but most of the pieces are only just being completed and shipped directly to the show. Here’s a Triple Popeye painting sprayed completely with a reflective surface, with what looks like a brushstroke, to give that sense of gesture to it, to give a sense of movement, a sort of abstraction.

TAN: All your work has this very long incubation period?


JK: My newest work, that comes after Popeye, is all in production and will take a couple of years to be completed, there’s always this long development time. Basically if I have an idea today I have to wait at least two years [until the work is finished].


The Art Newspaper: サーペンタインで見せている“Popeye”シリーズの絵や立体作品は2002年くらいから始まっているけど、今もここで作っているようだね?

Jeff Koons: いくつかの作品は1994年からここにあって、一つのシリーズを仕上げるのにはとても時間がかかる。“Popeye”シリーズは2002年に始まったけど、大半はやっと完成して、この展覧会に送られたばかりだ。

TAN: 全ての作品で、そんなに長いインキュベーション期間があるの?


JK: Popeyeの次の新作は今製作中だけど、仕上がるまであと2−3年はかかる。いつもこのくらいで、今日アイデアがうかんだら、完成するまでには最低2年かかるよ。


ここは突っ込みどころというよりは、まあこんなもんだろうとは思う。面白いのが、ギャラリストから若いアーティストへのアドバイスとして、例えばギャラリストが一つの作品を気に入ったとしたら、これをもとに最低10くらいのシリーズにしたらという、シリーズ化を強くすすめる場面を何度か見た。若いアーティストは、一つの作品をすばらしいものにしようと無心に作るのだが、それをシリーズにしようとはあまり思いつかないようだ。これは全員にあてはまるとまでは言わないがかなりいいアドバイスだと思う。見る側にとっても正直一つの作品で何か大きな感想を持つことはほぼ無いだろう。ある程度個展なんかでシリーズを見るか、同じ作家の作品をいくつかの展覧会で見ることではじめてなるほどって思うことも多い。ギャラリストとしては1つの単体作品よりはシリーズで10ほどあるほうが売りやすいということもあるだろうが、それよりはシリーズにすることで、作品の裏にあるアイデアが、何回も練られて強められ、洗練化されていくというのもあるだろう。アーティストも作品を客観的に見て、共通点を作りつつ別の作品をつくることで、強いシリーズ作品を作っていける。ジェフ・クーンズほどの巨匠で、フルタイムの120人が働いても2年かかるのだから、一人で全部やる若いアーティストは大変だが、そういうことなんだろう。

TAN: A lot of artists now outsource the production of their work to Asia and you could get this work done at half the price in China.

JK: The studio for me is a sense of family, of community. One of the wonderful things about art is that you don’t have to be so conscious of the bottom line, though you have to be somewhat aware of budget, you’re dealing with the impractical, the impossible, you’re pushing things to the edge. It’s always been important to me to feel self-reliant but at the same time I like the sense of providing for a community.


TAN: 今多くのアーティストがアジアに制作のアウトソースをしている。あなたも例えば中国で半値で作れると思うが。

JK: 私にとってスタジオは家族のようなものだ。アートの素晴らしいところの一つは、お金にそれほど気を使わなくてもいいことだ。もちろん予算なんかは分かっていないといけないが、非現実、不可能を相手にして、どこまで物事を極限まで持っていけるかと闘っている訳だ。常に安心していられることは私にとって重要だし、コミュニティーに何かを提供しているような感覚も重要だと思う。


まず、質問そのものに驚く。今やみんなアジアで作ってるんだからって、、、。すごいなiPodだけじゃなかったんだな。アート業界で中国中国って言っているのは、高い中国ポップペインティングの生産地としてと、西洋アートの巨大潜在マーケットとしてかと思っていたが、実は、世界の工場としても重要だったのか。これは、もう完全に製造業の水平分業か垂直統合かとかそういうことがアートを語る一つのファクターになりつつあると。日本の芸大で、デッサンとか彫刻がうまいかどうかで合否を判断している場合ではないかも。そしてクーンズの答えもまたすごい。アメリカンアパレルみたいだな。

全体のやりとりからかなり意図的に取り出した。アート的にもっと真面目な、彼の作品に関すること、彼のコレクションと彼の作品の関係などもふんだんに入っているので、上記の記事全文読んでも面白い。しかし、わかっているつもりだったが、本当にアートが、需要側、供給側ともに産業化している感じが否めない。ビジネス誌でのCEOとのインタビューにも聞こえてくる。そのうち、ファッション業界よろしく「ジェフ・クーンズ2012秋冬」とかいうようになるのか。アカデミックなアートクリティックはこのようなジャンルをほとんど評価していないという声も聞くが、客観的に見て、アートクリティックやキュレーターと、アーティストの力関係がどうもバランスが取れていないように見える。歴史は残っていくもので作られていくとしたら、巨大なものを沢山作れるものが残っていくのか。

Jeff Koons
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