カタログで振り返る8月のNYアートシーン

8月は観光客が増えることや、夏で日が長いことで、美術館では毎日のようにイベントが行われるが、いかんせんギャラリーはお休み、またはそれほどめぼしい展覧会をやらないので、なんと言ってもスローだ。みんな1年で一番力が入る9月の展覧会の準備中である。今年は、9月10日、もしくは17日にオープニングが重なっており、どちらの日もNY中で、50−100ものオープニングがある。NYにいらっしゃる予定のある方は是非どちらかの日の6時以降にチェルシーに行かれることをオススメする。

さて、本題。今月で一番すばらしい展覧会は、ブルックリン美術館でのインカ・ショニバレ・MBEの個展だろう。ナイジェリア系イギリス人の彼の作品で特徴的なのは、なんと言っても、Dutch Wax fabricとよばれるアフリカを連想させる派手なテキスタイルをアフリカを植民地化した当時の西洋人の洋服に使ったマネキン作品。ただ、今回初めて知ったのだが、あの誰もが(アフリカ人達も含めて)アフリカを連想するテキスタイルは実はオランダ人達が、東南アジアからアフリカに当時輸入したのが広まったものだそうだ。植民地化に伴う幾重にもからまる関係、イメージを様々なビジュアルで見せる彼の作品は、表層的には知っていたが、この個展という形で見てはじめてその重層性をつかむことができた。ちなみに、彼の名前の最後につくMBEというのは、member of Order of the British Empireの略でイギリス王家から授けられたそうで、植民地を扱うアーティストに、これが授けられたことを皮肉るためにも、この称号を使っているそうだ。シドニー現代美術館、ブルックリン美術館が中心になってキュレーションをし、ブルックリン美術館のあとはワシントンDCに巡回するそうだ。カタログもよくできている。展覧会は9月20日までなので、興味ある方は是非。

Yinka Shonibare MBE Exhibition
Venue: Brooklyn Museum
Schedule: From 2009-06-26 To 2009-09-20
Address: 200 Eastern Parkway, Brooklyn, NY 11238
Phone: 718-638-5000 Fax: 718-501-6136

Yinka Shonibare MBE
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僕はこの展覧会を見るまで実は、知らなかった作家だが、19世紀後半−20世紀初頭のベルギー人画家ジェームス・アンソール(アルファベットではEnsorだが、カタカナではこう表記するようだ)の大掛かりな回顧展がアメリカではほぼ初めてMOMAで開かれている。回顧展とはいえ、19世紀後半の若い時代の作品がほとんどだが、最初の風景画、静物画からはじまり、なんとなく印象派の影響をうけながら、彼独特の目がくぼんで見えないマスクのような人々の顔がならぶ独特の絵画、ドローイング、プリント作品が並ぶ。日本のものらしき仮面や扇子などのモチーフも登場する。日本では数年前に回顧展がいくつかの美術館を巡回したようだが、知らなかった。MOMAの展覧会は9月21日までなので、まだ間に合う。
James Ensor Exhibition
Venue: The Museum of Modern Art
Schedule: From 2009-06-28 To 2009-09-21
Address: 11 W 53rd St., New York, NY 10019
Phone: 212-708-9400

James Ensor
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オルデンバーグと彼の妻で最近亡くなったCoosje van Bruggenのソフトスカルプチャーやドローイングの回顧展が、ホイットニー美術館で開かれている。プレスプレビューでの彼のスピーチも聞くことができた。食べ物や、楽器などを実際よりもかなり拡大したスカルプチャー作品で有名で、最近は、世界中で巨大パブリックアートを手掛けている。日本にもいくつかあるが、有名なのは、東京ビッグサイトの前にある巨大なノコギリは彼の作品。スピーチでは、世界中の自治体と仕事をしてプロジェクトをしていくのは大変だが、芸術史家でキュレーターの彼の妻がマネージャーとして、うまく交渉をまとめてくれたからこそやって来れたと話していた。この展覧会はもうすぐ終わってしまう。カタログは二人で二人三脚ですすめてきた世界中のサイトスペシフィックな巨大スカルプチャー作品をまとめたもの。
Claes Oldenburg and Coosje van Bruggen Exhibition
Venue: The Whitney Museum of American Art
Schedule: From 2009-05-07 To 2009-09-06
Address: 945 Madison Ave., New York, NY 10021
Phone: 1-800-WHITNEY(944863 Fax: 212-570-4169

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同じく、ホイットニー美術館でダン・グラハムの個展がはじまった。彼の作品は数年前に千葉市立美術館での個展で見たり、また直島にも一つあるし、2年前のミュンスターの彫刻フェスティバルでも見ていたが、いずれも建築と彫刻の間くらいの大きさの作品で、鏡やグレーの偏光ガラスでできた視覚的なトリックを利用した比較的最近の作品だった。今回の展覧会ではそれらの作品も多いが、それに加えて過去のテキストベースの作品、また多くの人の前で行うパフォーマンスの作品のビデオなどもある。今も昔もかわらないのは、自分と他人の視線や自意識にチャレンジしたものばかりというところ。平日に行ったのだが、真っ赤なシャツを来て作品を説明しているご本人が会場内にいた。初めて見たのだが、思ったよりも白髪で年がいっていた。これは始まったばかりで10月まで続く。
Dan Graham "Beyond"
Venue: The Whitney Museum of American Art
Schedule: From 2009-06-25 To 2009-10-11
Address: 945 Madison Ave., New York, NY 10021
Phone: 1-800-WHITNEY(944863 Fax: 212-570-4169

Dan Graham: Beyond
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最後はちょうど先週で終わってしまったが、グッゲンハイムで行われたフランク・ロイド・ライトの展覧会。彼がデザインした螺旋状のグッゲンハイム美術館が完成して50周年ということで行われた大回顧展。だが、はっきりいって展覧会はよくなかった。せっかくの50周年だが、不況ということで予算が削られたのか、オリジナルの図面ばかりの展示で、建築モデルもあまりなく、地味な内容。やはり建築展というと、立体をイメージできる映像なり、モデルがないと展覧会という形式としてはかなり弱い。これを考えるとまあ本人が存命とはいえ、オペラシティの伊東豊男展は展覧会としてかなりすばらしかった。今回唯一面白かったのが、彼の後半の人生ではかなり未来志向で、どれも実現されていないが、巨大建築や、都市計画がかなりあり、どれもこれも写真やCGでみるドバイを彷彿とさせる。資料の集まりとしての展覧会ということで、逆にカタログとしては面白いはず。
"Frank Lloyd Wright: From Within Outward" Exhibition
Venue: Guggenheim Museum
Schedule: From 2009-05-15 To 2009-08-23
Address: 1071 5th Ave., New York, NY 10128
Phone: 212-423-3500

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