Monday, April 25, 2011

"Love Art & Help Japan" について



3月11日の震災直後の週末は、本当にUSTから流れてくるNHKの放送に釘付けになりながら、唖然とするばかりだった。多分程度の差こそあれ、日本人だけでなく世界中の人がそういう感じだったんじゃないだろうか。ただ、月曜日になると、当然のことながら、ニューヨークに住む人々は、通常通り通勤通学がはじまり、店は普通に開いていて、本当に何事も無かったかのように日常にもどっていった。その中で、日本人の自分としては、頭の中の大きな不安などと目の前の日常に大きなギャップを感じながら、自分には何ができるのだろうかと考えるようになっていった。その間に出会ったアーティストの一人にアートビートは何かやらないのか?と聞かれたことや、日本からたまたまNYに来ていた編集者の人にファッション業界はすでにリアクションを起こし始めているがアート業界はどうなんだと聞かれたことなどもなんらかのきっかけになったかもしれない。

ちょうど、次の週がニューヨークではアジアアートウィークで、主にアンティークだが日本に関連する展覧会、イベントもたくさん予定されていたことで、そのアートウィークでなんらかのファンドレイジングをするべきだと考えた。アジアアートウィークの中心的存在はやはりオークションであり、クリスティーズで日本美術のオークションを統括している山口桂さんには日頃からお世話になっていたこともあり、真っ先に連絡し、企画どころかまとまった考えにもなっていない中で、コンタクトをしてみた。震災のたった10日後に日本美術のオークションを控える山口さんも、何かをしなければいけないという気持ちでいっぱいで、大きく賛同してくださり、数日後のアートウィークスタートに間に合うようにと大急ぎでいろいろと電話とメールで話し合った。

アート業界は他の業界に比べて産業規模も小さいし、またそれを構成するプレーヤーも企業体をなしているのは美術館、オークションハウスくらいのもので、他はアーティスト、ギャラリーと個人事業やそれに毛のはえたようなのが多数集まってなりたっている。ただ各自は小さくとも、それらが繋がることで一つのチャネルとして広がっていくフレキシブルなファンドレイジングキャンペーンということで、最終的には、こちらで募金箱を用意し、アートウィークに参加しているギャラリー、オークション、その他アート施設に置いてもらうことにした。義援金を集めると同時に、日本から遠くはなれたニューヨークでもアートを通じてこの東日本大震災についての認知を高めてもらうのがねらいだった。ニューヨーク中に無数にちらばるギャラリーの受付台を一つのメディアと見立てたわけだ。

震災復興の役に立つ何かをしたい、そこから遠くはなれた自分に何ができるかと考えたときに、自分には直接義援金として送るお金はあまりないけれども、アートビートのメディアと、日々リスティングしているニューヨーク中の1000を超える美術館、ギャラリーとのコンタクト、そしてなにより自営業者として自由に動ける時間はあるなというのが出発点だったような気がする。

募金箱を作るにあたって、J-collaboというニューヨークにおける日本人アーティスト、デザイナーなどを結ぶメディア、イベント活動をしている佐賀関さんが、以前資生堂にお勤めでコスメのパッケージデザインをやっているプロだということで、協力をお願いしたところ、2つ返事でご協力いただけることになった。できるだけコストをかけずに、メッセージが一目で伝わるしっかりしたデザインの募金箱を数十単位で、数日で作るという難題をクリアしてくださった。

まずベースになる箱はダンボール製で主に投票用なんかに使われるのが安くあることを見つけて、最小ロットである50を注文。キャンペーン名を"Love Art & Help Japan”とし、一目でそれとわかる素晴らしイラストを佐賀関さんの知り合いのイラストレーターの方に描いてもらう。キャンペーン名、イラストをシールで印刷し、発送されてきたそれらの箱に貼り付ける。火曜日に動き始めて土曜日にはすっかり50箱が完成した。



まずは、山口さんが中心にアジアアートウィークに参加しているギャラリーに参加をよびかけ、また、自分たちの周りのアート関係者の皆さんに参加、賛同を呼びかけるメールをし、そこから有機的に繋がりのあるギャラリー、アート施設に呼びかけが広まった。同時にNYAB内に簡単なオフィシャルページをつくり、そこをランディングページにtwitter、facebook、メールなどでどんどん呼びかけをしていった。

1ヶ月ほどがたった4月末現在、匿名での参加をしてくれているギャラリーなども含めて70ほどのアートスペースが募金箱を設置してくれている。中でも世界有数の大手ギャラリーのPace Galleryはニューヨーク中の関連ギャラリー8箇所全部に置いてくれている。期間としては、印象派、現代アートのオークションなどもあり、ニューヨークのアートシーンが一番盛り上がる5月いっぱいまで置いてもらって5月末に回収し、日本赤十字に全額を送ることにしている。

このような形での募金活動を日本でさえやったことがなかったのだが、米国でということで、体当たりでやるしかなく、やりながら学ぶことはいくつもあった。まず、美術館や、アートセンターなどの非営利団体は、真っ先に参加してくれるかと思いきや、その美術館の設立目的(現代アートの啓蒙などそれぞれだが)以外の名目でファンドレイジングをすることができない場合がほとんどであり、このような活動にほぼ参加できない。特に米国では、様々な形でこれら非営利団体に税制上の優遇措置が与えられているが、逆に言えば、税の優遇を受けている設立目的の活動内容以外はできないようになっている。考えて見れば当然だが、最初は思いつかない。あとは、大手ギャラリーからの返答で多かったのが、今回の震災はもちろん大変なことで、参加したいのだが、このようなキャンペーンに一度参加すると、世界中で起きている様々な災害、戦争、人道上の問題などからの参加の要請がたくさんあり、言葉は悪いがきりがないので、申し訳ないが参加できないというもの。世界中から外国人が集まってできているようなニューヨーク、まして外国人だらけのアート業界らしいといえばらしいか。このあたりになってくるとそのギャラリーがどれだけ日本に親近感を持っているか、ギャラリー内に日本人従業員がいるか、日本人作家を扱っているか、担当者がどのように判断するかなどで対応は変わってくる。ただ、先進国の日本であまり大きな問題らしい問題が起きない日本人にとってみると今回の震災は未曾有の世界を揺るがす大事件だが、人によっては、それでも経済力のある日本よりも大地震が起きて1年もたっているが復興が進まないハイチのほうがまだまだ助けは必要だと真顔でいう人もいる。あとは現金を入れる募金箱を置いてもらうギャンペーンにあたって、その主催が有名人や有名な企業ではなく、有志の集まりということで信頼を醸成するのが大変かと思ったが、最初に大きな企業でもあり、アート業界で信頼されているクリスティーズが参加してくれていたということでキャンペーン自体の信頼性が担保されたのは大きい。また、米国ではあまり現金を持たずにクレジットカードや小切手を使う場合が多いのだが、オペレーションの簡略化のためにも、草の根活動ということで法人無しで寄付に対する税の優遇などもできないということで、この募金箱はキャッシュのみにしている。それでもこの募金箱を見ることで、震災に対して小切手で大口の募金をしたいという方が結構いて、そういう方にはしっかり税の優遇も受けれるJapan SocietyのJapan Earthquake Relief Fundをすすめてもらうようにしている。あとは、ある数日間の大きなアートイベントに置いてもらっても10ドルしか入らなかったこともあり、目立つところに置いてあっても、アートを見に、買いに来た人が自分とは関係の無い日本の震災への募金箱にお金を入れるというアクションにつなげるのは簡単なことではないが、人がある程度滞留するオープニングなどのときに、お酒をサーブする場所の横に置いておいたりすると、お酒は無料だが、サーバーにチップをあげる習慣があり、財布に手をかけたついでにという一つのきっかけや、何度も募金箱を目にすることで何度目かには実際の募金につながることで、結構お金が集まることも経験上わかってきた。

たくさんのボランティアの方が様々な形でサポートしてくださっていて、募金箱をアッパーイーストサイドからブルックリンまで70箇所ものアートスペースに持っていっていただいたり、また、アートスペースに置いてもらう以外にも、様々なチャリティーコンサートやアート関連書籍の出版イベントなどでもボランティアの方が箱を持ってみんなに呼びかけることで1日で結構募金が集まっている。また、アジアソサイエティという美術館では、上記の税制上の理由からも震災復興のための義援金集め自体はできないけれど、その呼びかけのためのチャリティーコンサート内でこのキャンペーンについてのプレゼンテーションをする機会をくださったり、自分も運営に関わっていた"We Are One”チャリティー展覧会の一つの企画として、このキャンペーンに大きく賛同してくださっている芸術史家の富井玲子さんが、アーティストの森万里子氏、インゴ・ギュンター氏、DJ Spooky氏に声をかけてアーティストトークを企画してくださり、トークの入場料の代わりに募金をお願いしますというような形でファンドレイジングしたりと、様々な形でこのキャンペーンは広がっている。

かなり長くなってしまったが、キャンペーンをはじめて1ヶ月以上たち、記録のためにも、また他のファンドレイジングにも活かせることが若干あればと思い、できるだけ丁寧に書いたつもり。

以下、このキャンペーンについてのフォトレポートや他の媒体での紹介記事のリンク。

- NY中の様々なアートスペースに設置された募金箱のフォトレポート
- NY中の様々なアートスペースに設置された募金箱のフォトレポート2
- ”We are one”チャリティー展覧会のフォトレポート

- Art in Americaでの紹介記事
- Adrian Favell氏がArt itにて紹介してくれた記事
- NYUでジャーナリズムを学ぶ2年生の大学生がFOXニュースのインターンとしてオンラインの動画ニュースとして紹介しれくれたもの
- キャンペーンの賛同者の一人である芸術史家の富井玲子さんが業界誌の「新美術新聞」5月1・11日号で紹介してくださった記事

Wednesday, April 20, 2011

東京でのレクチャーと執筆を少し

はっと気がつくと自分のブログが最後に更新されたのは去年の8月とは。本当にブログの体をなしていない。

マイルで行くしかなく、いい時期に飛行機のチケットが取れないという消極的な理由で年末年始に1ヶ月以上日本にいたのだが、その際に大小含めて4つのレクチャーをさせていただいたので、そのことと、今年に入って2つ文章を書かせてもらったことなど。

-CAMP 現在のアート<2010>「2010年のニューヨークアートシーンを僕なりに振り返って」@ 3331 Arts Chiyoda (December 22, 2010)

CAMPとして恒例になっているらしい企画で、年末にその年を10人以上のアート関係者が振り返る長時間トークに呼んでもらった。ニューヨークで展覧会を見ている身として、2010年なんとなく目立った傾向のようなものを話した。詳しくは後述。12人の最後ということで時間をオーバーしてしまい、みなさんにかなり突っ込まれる。4時間のトーク後、すでに終電はなく、2次会でとても久しぶりに甘太郎的なチェーン居酒屋で朝まで。2次会含めてとても楽しかった。

- 「2010年のニューヨークアートシーン」@ 前橋市立美術館準備室 (January 19, 2011)

学芸員の住友さんが主体になって準備している前橋市立美術館予定地を見学ついでに、トークでもということで、前橋を中心に活動しているアーティストやデザイナーなどのみなさんにアートビートの活動と、CAMP同様ニューヨークの2010年アート的傾向のようなものを話した。前橋は県庁所在都市で市立美術館がない最後の都市だそうだ。建物を建てるのではなく、デパート跡地をリノベーションして美術館になるという今風のやり方。鈍行で2時間弱ということで、午後に東京を出て、10時半頃の終電で帰ってきた。

- 第四回MCDN定期勉強会「アートとWEBサービスの最新動向」@ 慶応義塾大学三田キャンパス (January 20, 2011) 【実施報告】Togetterまとめ

慶應でアートマネジメントを教えていらっしゃる岩渕先生と、修士の山本さんが中心になって立ち上げたMCDN=Museum Career
Development Networkの第四回で話させていただいた。この勉強会の趣旨からも美術館やその周辺についての話が多いそうだが、少し話題を広げさせていただいて、ここのところ急に増えていたアート関連のウェブサービススタートアップの動向について話をさせていただいた。TABで新しく出したiPhoneアプリのMuponも東京の美術館への客の誘導チャネルの一つとして事例紹介させていただいた。

- 東京芸術大学芸術情報特論 「東京とニューヨークのアートシーンを眺めて」@ 東京芸術大学上野校地総合工房棟 (January 21, 2011)

最後は、藝大にて芸術情報特論という授業の一コマを担当させてもらった。その授業全体を受け持つ城さんに以前声をかけていただいたのがやっと実現。これまたアートビートの活動と、2010年ニューヨークでのなんとなく目立った傾向についての話をした。学生が中心ということもあり、アートビートを始めたころの話を中心に。上野キャンパスの中にある不忍荘という日本家屋を3部屋の旅館に改築したものに1週間泊めてもらい、大学内に寝泊まりするというとても楽しい経験をさせてもらう。

以上4つだが、そのうち3つはアートビート設立秘話的なものプラス2010年のニューヨークのアートシーンの傾向について話したのだが、具体的には、「Anthropology的(文化人類学的)」「パフォーマンス」「ポーランド」「ソーシャルワーク」という4つのキーワードを挙げて、それぞれ4,5人のアーティストをスライドで紹介した。名前を挙げておくと、Anthropology的: Huma Bhabha, Matthew Monahan, Matthew Day Jackson, Joanna Malinowska、パフォーマンス: Marina Abramovic, Tino Sehgal, gelitin, Bruce High Quality Foundation, Aki Sasamoto、ポーランド: Monika Sosnowska, Wilhelm Sasnal, Jakub Julian Ziolkowski、ソーシャルワーク: #class(展示), #TheSocialGraph(展示), Lush Life(展示), Terence Koh。

慶應では、ちょうどヴァーチャルフェアであるVIPが大注目されていたこともあり、VIPや、その他アメリカでどんどん出てきているアート関連のウェブサービススタートアップの紹介をした。詳しくはMCDNの実施報告と、レクチャー中のみなさんのtwitterをまとめたTogetterを読んでいただくのがいいが、旧来の広告収入中心のメディア型ではなく、ショップ型であったり、サブスクリプションベースのアーティストカタログサイトなどが数種類でてきており、どれもはじまったばかりでどれが上手く行くか誰にもわからないが、広告を見込むビジネスは一つも入っていない。急にこれらのサービスが増えている背景の一つに、90年代に金持ちになった金融系の人がアートを買い始め、中にはギャラリーをはじめたような人がでてきたように、なんらかのITベンチャーでお金持ちになったIT系の人たちの一部がアートを買い始め、その中から、アートマーケットの閉鎖性やIT化の遅れをビジネスチャンスと見て自分でサービスをスタートする例が多いということがあるというような話もした。

さて、執筆としては、下記の2つの記事を最近書かせていただいた。

- Na+ Issue #1 P6 「日本のアートを世界に」

上記CAMPの井上さんや女子美で教える杉田さん、キュレーターの崔敬華さんなどが中心になって立ち上げた”芸術生産に関わる人々が「ナショナリズム」について考えるためのタブロイド紙『Na+』”。お固い表題で、最初は本当に筆がすすまなかったが、結局自分が日々行っていることに引き寄せて書くことでなんとか締切りを大幅にオーバーしながらも書くことができた。

- 美術手帖 2011年3月号 P233 「世界初のオンラインアートフェア」

話題になっていたVIPアートフェアについて、フェア後にニューヨークのいくつかの参加ギャラリーにインタビューをして、他のプレスなども参考にしながらまとめた記事。はじめて美術手帖に執筆。