「Style Wars」 70/80年代のNYのグラフィティー


ひょんなことから、80年代につくられたNYのグラフィティーシーンに関するドキュメンタリーの「Style Wars」を見て、とっても驚いた。NYの地下鉄が走っているシーンではじまるのだが、なんだかSFのようだ。知識として70年代、80年代のNYの街はグラフィティーで埋め尽くされていたというのを知っていても、実際にグラフィティーに塗り込められた地下鉄が走るシーンを映像で見ると全然違った。昔からNYにいる人は、昔のNYの地下鉄はきたなかったんだと言うし、その当時の人達にしてみたらグラフィティーなんて不良少年達がやるもので、迷惑だと多くの人達は思っていただろう。でも当時のヒップホップやブレイクダンスといきいきと編集されたその映像をDVDで見た感想を正直にいうと、美しい、すばらしいだった。今のNYはNYで街として安全だし、きれい(昔よりは)だし、魅力的だが、はっきり言ってこのDVDに映っているNYはずっと魅力的に見える。

日本にはグラフィティーの波は来なかったので、日本で生まれ育った僕には、なんというか写真/映像の世界だが、今でも、NYと東京の違いはと聞かれれば、NYにあって東京にないのはグラフィティーをはじめとするストリートアートです。と答える。知識としては、今のグラフィティーなんて、70、80年代のものに比べれば全然違うことは知っていても。ヨーロッパには、MTVをはじめとするテレビを通じて、80、90年代にはグラフィティーが伝播したようで、数年前に東京オフィスで手伝っていたドイツ人ウェブデザインスタジオのLess Rainは「LRPD Vandal Squad」というオンライングラフィティーペイントツール/ネットワークをだいぶ前に作ってかなり話題になったし、今でもアクティブに参加している人も多い。でも、横で働いていても、日本人の僕にはピンと来なかった。でもこのDVDを見たあとなら、なんとなくピンと来るような気がする。

今のNYのグラフィティーは、70、80年代の本当に素性を隠して町中に描いては消されていくタグの存在主張だけで成り立っていたものとは、大きく変わり、メディア/インターネット/デジタル写真/flickr/google mapなどと補強し合いながらグローバルにスター化して公然と認知され、コマーシャルギャラリーで取り扱われる「アーティスト」の活動になっている。うがった言い方をすれば、ストリートでプロモーションをして、ギャラリーでマネタイズして、最終的にはミュージアムピースになっていく。折しも、パリのカルティエ財団では11月までグラフィティー展をやっているようだ。僕は、このギャラリー/ミュージアムをにらんだ今のグラフィティーアーティストの活動もとても面白いと思うが、このDVDを見て、70/80年代のグラフィティー「ライター」達のストリートでの圧倒的な存在感、ライブ感、十代のぎりぎり感、突っ走り感みたいなのを見て、正直感動してしまった。

そんなんの、常識だよという人も多いかもしれないが、もし見たことが無い方は、是非。

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