こんなに楽しい現代美術がわからないという人のための入門書(藤高編)

昨日、みたいもんのいしたにさんの”こんなに楽しい現代美術がわからないという人のための入門書”という記事を読んでとってもうれしくなった。というのも、いしたにさんは有名ブロガーだが、いわゆるアート関係者ではなく、アートに対しては一般的な人の目線で記事を書いていたから。こういうことってあんまりなかったんじゃないかと思う。有力ブロゴスフィア(この言い回しって古いのかな)で、建築、映画に関するものはたまにあり、まあデザイン関係の話題も散見されるとして、アートに関するものってほとんどなかったような気がする。あっても村上隆のMy Lonesome CowBoyが16億円で落札されたときくらいか。

これに触発されて自分も続けと思って、はたと気がついた。このブログを読んでくださっている方の中には僕がアートについては"よく"知っている人だという前提で読んでくださってる方もいらっしゃると思う。僕は、作品や展覧会そのものはできるだけ見るようにしているし、まあ割と見ているほうだとは思うが、実は、アートに関する本はほとんど読んでいなかったことに今更ながら気がついておどろいた。

さて、それでもその少ない中で、あまり説得力がないが、1冊あげろといわれれば、これ。


上野の森美術館の、高橋コレクションの「ネオテニー・ジャパン」が一人のコレクターによって芯が通っていて、現代アートになじみがない人にとっても取っ付き易い側面があるとすれば、水戸芸術館ではじまり、原美術館でも開催された、一人の批評家の松井みどりによって芯が通った「マイクロポップ」もまた一つのまとまりとして取っ付き易いのではないだろうか。松井みどりは、歴史を記録するだけではなく、歴史を紡ぎだしてもいる。その松井みどりが現代アートの”教科書”として書いた本書は20世紀以降のアート”ヒストリー”を概観できる数少ない本で、現代アートの展示をいくつか見たんだけど、なんか頭がまとまらないという人に特におすすめ。日頃見に行く現代アート展覧会が点だとすれば、この本がその点同士を繋ぐ大きな助けになってくれるはず。

母数が少なくて、この記事のタイトルに合う本はもう知らないので、これ以降は、番外編。

まず、
Collecting Contemporary
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Adam Lindeman
Taschen America Llc
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欧米の有力コレクター(グッチ、プランタンのオーナーのフランソワ・ピノー、チャールズ・サーチなど)、ギャラリスト(ガゴシアン、ダイチなど)、オークション会社、批評家、コンサルタントなどへのコレクションに関するインタビューで、これからコレクターになろうという人向けの本だが、それ以外の人にとってもアートのお金の側面についていろんなプレーヤーからの視点でだいたい理解できるので、おすすめ。英文だが、インタビューということで、読み易いし、覗き見的感覚も味わえ楽しく読める。日本のコレクター、ギャラリストを加えて邦訳版が出てもいいと思う。

Relational Aesthetics
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Nicolas Bourriaud
Les Presse Du Reel
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90年代にフランスの批評家ニコラ・ブリオー(パリのパレ・ド・トーキョーの創設者の一人)によって書かれた本で、モノとしてのアートが、90年代以降、関係として、環境としてのアートへ変わりつつあるということを書いた本。仏語がオリジナルで英語にはすぐに翻訳されたようだが、和訳はされていない。これは読み易いとはいえないが、かめばかむほど味が出る系の本なので、何人かで輪読のようなことをしながら読むことをおすすめする。ちなみに知りあいの数名が少しずつ和訳をすすめているはずだが、もし日本の出版社で興味持ちそうなところをご存知の方はご一報を。

写真論
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スーザン・ソンタグ
晶文社
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写真が好きな方にはおすすめ。というかそういう方は勿論知っているかもしれない。読み易いとはいえないが、写真やアートについて、ものとしてのアートマーケットとか、社会的な仕組みがアートをどう取り囲んでいるかとか、どこに新しい美術館ができたとかいう割とジャーナリスティックで、ともすれば近視眼的で、最近特に陥りやすいこういう思考になりすぎたときには、そもそも”みる”っていろいろあるよねと立ち返らせてくれる本かなと。


なんだか、脱線に脱線を重ねているような気分になってきたが、最後は、アメリカ人社会学者のリチャード・フロリダによるベストセラー。1、2年前にしっかり日本語版も下記のように出たが、なぜかあまり評判がよくないようで、日本語のほうは実はまだ読めていない。英語を読んだとき、これは絶対日本語化されるべきだと思って、リチャード・フロリダにメールで連絡をしたら、丁度ダイアモンド社が翻訳に取りかかっているよと知らされてほっとしたり、ちょっとおしいなと思ったりした本。クリエイティブクラスという言葉から、デザイナー、アーティスト、建築家などを想像してしまうが、彼の中ではもっと定義が広く、都市部のリベラルでプロフェッショナルな個人の集まりというようなくくりかと。そのクラスの重要度が社会の中でどんどん大きくなっているというのが主旨。この本は直接的にはアート/美術に関係しないが、もし、この本の仮定がだいたい正しくて、このように社会が変化していくとするならば、近い将来、「現代アートはどうして面白いのか?」という問いが、「ダイヤモンドはどうして美しいのか?」と同じように聞こえるそういう社会になりそうな気がして興奮した記憶がある。

クリエイティブ・クラスの世紀
リチャード・フロリダ
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