NYにおけるアート本・カタログの売り買い事情

写真はEV GRIEVEよりMast Books店頭

11月末に1年半住んだイーストビレッジのアパートからブルックリンのサンセットパーク地区に引っ越したのだが、アートのプレスということで、日頃からカタログなどをもらうことも多く、かなりの量になっていたので、捨てるのも忍びないしと重い、結構な量の本(主にアート関係)を古本屋に持っていった。最初は1箇所に持って行ってそこで引きとってくれなかったら捨てようと思っていたのだが、最初のところが意外と高く買ってくれたのと、アート本の価値について興味がわいたので、最終的には3箇所に持っていった。

まずは、イーストビレッジに昔からある老舗の古本屋のEast Village Books、文化一般幅広い書籍や音楽CDも売っている。

East Village Books
99 St. Mark's Place (between Ave. A & First Ave. in Manhattan)
New York, NY 10009
(212) 477-8647

その次に行ったのが、Avenue Aに最近できたセレクションがかなりいいアート古本屋のMast Books。


Mast Books
66 Avenue A
New York, NY 10009
Between 4th & 5th Streets

そして、4th Avenue沿いのAlabaster Bookshopここも文化関係を中心に多様な品ぞろえ。


Alabaster Bookshop
122 Fourth Ave., New York, NY 10003
nr. 12th St.
212-982-3550



本、特にアートのカタログなんかはかなり重いので、10冊くらいをリュックに入れると限界。最初のEast Village Booksでは、半分くらいを引きとってくれて30ドル弱。悪くない、中でもある若手中国人作家のジンのようなアーティストブックが、これは売れないかもなあと思っていたら、実は10ドルで引きとってくれてかなり驚いて、次の日に別の本を持って行くとちゃっかり200ドルの値札がついて一番いいところで売られている、、、。ここでは店員はまず本をざっと見て、間違いなく買わないのだけよけて、その後買うかもしれないのをオンラインのデータベースを見て価格を決めていく。結構セレクションは厳しい。ただ、店員がアートのことをすごくよく知っているというわけではなさそう。データベース頼み。

次のMast Booksはさらにセレクションが厳しく、アートプロフェッショナル的にホットであったり、有名な作家のモノグラフか著名な作家のフィクション、哲学書などしか買ってくれない。ここは店員がアートシーンをよく知っていて(たしか元ガゴシアンギャラリーで働いてた人がはじめたという話を聞いたような)、最後の最後にオンラインのデータベースで確認する程度。

そしてはじめの2店に何回も行って結構あまったなあと思って、だめもとでAlabaster Bookshopに行くと、ここは全ての本を片っ端からオンラインのデータベースで調べて、そこでの販売価格の10%の現金(若干交渉の余地はあった)か20%のストアクレジット(その店で別の古本を買えるクレジット)にしてくれた。値段がつかない本(つまりオンラインのデータベースで1ドルになっていてしかも何点も出点されている)なんかも50セントなんかで引きとってくれた。若い店員さんがかなり気さくで、店頭に結構日本の古美術のカタログなんかもならんでいて聞くと、彼は最近コロンビア大学を出たばかりで、大学で日本美術史の授業を受けていたからだとのこと。本好きだからいいけど、ちゃんとした仕事を探し中だ的なことも言っていた。

結局100冊近くを3店舗で下取りしてもらって色々わかったのだが、まず通常の小説や文芸書などはクラシックな名著であってもほとんど値段がつかない。これは完全に電子書籍、電子リーダーの普及の影響だとのこと。しかし、アート本はほとんど電子書籍化されていないし、中小の出版社が細々と出していたりギャラリーの自費出版的なものが多く、種類も多いので、逆にニッチに流通しているようで古本の値段がかなり高いのだ。推測でしか無いが、アートコレクターにとって数百万、数千万円のアート作品を買う前に、予習のために数万円の資料性の高いモノグラフ、カタログを買ったり、ほぼ作品のようなジンを数万円で買う価値は十分にあるのだろう。

今までオンラインのデータベースとやや抽象的に書いてきたが、アマゾン含めて皆が使うのは2,3種類で、どの書店の店員もまずいくのがAbebooks というサイトで、これは世界中の(日本は入ってない)古本屋が加盟して、主に古本の売り買いをしているサイト。かなりマイナーな本(本というかジンというかみたいな体裁のアート本なども)まで出てくる。店先は小さく古い感じのEast Village Booksが高額(買取価格数ドルー10ドル、つまり販売価格数十ドルから数百ドル)の本を買い取ってくれたときに、あまり客の入りもよくないこの店でちゃんと在庫はけるのかなあと感じたのだが、今から考えると、このAbebooksのようなメインはBtoBのexchangeサイトのおかげで、全米、もっと言えば世界中のどこかである一人が高いお金を出してでもほしいと思う本であれば、在庫に持っていてもオンライン経由で売れていくのだろう。つまり、一見昔ながらの古本屋にみえて、その実は通りがかりの客も入ることができる在庫倉庫みたいなものにかわりつつあるようだ。だから逆にそういう店では大量に流通していてどこにでもある小説なんかは引きとってくれない。Alabaster Bookshopは大通りに面していてそれなりに客の入りもあるので、レアなアート本と多く流通している安い本も引きとってくれる。アマゾンの巨大化にともなって書店チェーンが倒産したりしていく中で、逆にこういうニッチな個人店舗は、アマゾンの巨大流通倉庫+輸送料よりもずっとローコストな(つまり、店頭に安い給料の店員が一人だけいて、客が持ってきた古本を査定して必要なものだけ下取りして、店頭とオンライン両方で売っていく)この構造でやっていけているんだなあと感心してしまった。先に、店というよりは在庫倉庫になりつつあるニッチ古本屋と書いたが、店頭が無くなってオンラインショップになってしまわない理由の一つは、店頭が実は買う客向けよりは良質の在庫を売りに来る客獲得に向いているからじゃないかとまで感じる。どちらにせよ、テッククランチの「シリコンバレーのわれわれは雇用を殺し, 富める者を肥大させているのか?」の記事を思い出した。ロングテールで一つの独占企業が勝って、あとの中小はどんどん死に絶えていくというではなくて、小のところはしっかりニッチにアジャストすればロングテールのテール部分をどんどん伸ばしていく方向でやっていけるのかなと感じさせてくれる。

ちなみに、少しだけ古着もBuffalo Exchangeというところに持っていった。さすがに古着はオンラインデータベースみたいなのは無いので、店員が経験と勘で、その場で店頭での再販売価格を決める。ここはブランドというよりは、その服が綺麗かどうか、デザインがカジュアルで若いかどうかが決め手のようだった。この店では、その再販売価格の30%を現金で受け取るか、50%のストアクレジットにしてくれる。客もその店に来た人が買っていくというもの。昔ながらの古着ビジネスだが、本の換金率(10%)よりもかなりいい。ファーストファッションの影響か、人々の服を買い換えるサイクルが早くなっている中で、こういう業態も以前より以外のいいのかもしれない。


Buffalo Exchange
332 E. 11th Street, East Village, New York, NY
Between 1st and 2nd Avenues
(212) 260-9340

結果的に、大量の本と少しの服で結局2,3百ドルにもなった。これにはかなり驚きで、10年前であればほとんどニッチ過ぎて値段がつかなかったであろうと思うと久しぶりにインターネットはすごいなあと思う。自分は今回全くネットで売り買いしていないにも関わらず。さて、このAbebooksに近いようなことをアート業界でやろうとしていたのがArt.syなのだが、もうかれこれ2年近く経つがサイトがスタートしない、、、。色々とオンライン上だけでたくさんのことをやろうとして、バランスがとれなくなっているのかな。Abebooksみたいな割り切ったセカンダリーギャラリー同士のexchangeサイト誰かやらないかな。セカンダリーは何かと不透明で批判の対象になるけれど、皆がこのようなexchangeサイトを使うことで、セカンダリーの取引がある程度透明になると思うのだが。サイト自体の仕組みはそれほど難しくないだろうけど、B to B、B to Cともに多くの人に使ってもらう最初の巻き込み、立ち上げが一番難しいだろうなあ。


Comments

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