美術手帖2012年1月号「Global Art Market Now: 世界のアートマーケット」に執筆

明けましておめでとうございます。

Photo by Aneta Glinkowska

現在、書店に並んでいる美術手帖1月号で、なんと総計27ページ分も担当したので、ここで簡単に紹介させていただいて、是非ご覧いただければと。この号は表題が「Global Art Market: 世界のアートマーケット」で、美術批評が中心であった美術手帖としてはかなり珍しいアートマーケットについての特集号。書店にならんでほぼ1ヶ月弱が経ち、もう次号が並びそうなタイミングだけれど、編集長によると内容についての評判も、そして売り上げも通常よりいいとのこと。日本でもアートマーケットについての情報がかなり強く求められているということだろう。

美術手帖 2012年 01月号 [雑誌]

美術出版社 (2011-12-17)



11月に村上隆の呼び掛けで行われた震災復興のためのチャリティーオークション「New Day」について、2000年以降のアートマーケットの概要について、アートマーケットにおける重要人物へのインタビュー、そして成長するアジアマーケットについてと幅広く、そしてしっかり掘り下げて現状のアートマーケットがわかる内容になっている。

その中で、自分が担当したのは下記7本計27ページの記事。

- New Day 「プレビュー記者会見レポート」P.17
 開催1週間前に行われたプレビューに出席していた奈良美智、タカノ綾など作家紹介をメインに。

- New Dayのクリスティーズ担当者「Koji Inoue」へのインタビューP.20-21
 クリスティーズのスペシャリストにNew Dayについてと、そもそもスペシャリストの仕事について。

- New Day開催前に雨ニモ負ケズの朗読を行った俳優の渡辺謙へのインタビューP.21
 はじめてオークションに関わったことについてなど。

- New Day主催者の村上隆へのインタビュー P.23-29
 今回のプロジェクト、村上隆にとっての日本とアメリカについてなど幅広く。

- 「数字で知るアートマーケットの規模」P.32-35
 例えば、現状の世界のアートマーケットは4兆円程度だが、GDP比では1割弱の日本は1000−2000億円程度であることなど、マーケットにまつわる数字を紹介、説明。

- 「年表でたどるアートマーケットの発展史」P.36-41
 ここ10年間に起こったアートマーケットに関する出来事(高額作品の取引など)を時系列で紹介。

- アートアドバイザーの「アラン・シュワルツマン」へのインタビューP.104-109
 昨今のアートマーケットの最有力プレーヤーでありながら、あまり表に出てくることがないアドバイザー。世界トップクラスのアドバイザーに、そもそもアドバイザーとは何か、そして彼の顧客について、日本の戦後美術の「発見」などを伺った。

日本語によるインタビューを2本(村上隆、渡辺謙)、英語のインタビューを2本(井上光司、アラン・シュワルツマン)、レポート1本、数字についての情報記事2本と全てアートマーケットに関わるものでありながら、幅広いアプローチ、記事スタイルに関わることができ、大変なこと(特に数字周りの情報記事はネタ探し、数字の確認などのためにネットや有料データベースだけでなく、過去10年間のアート雑誌に目を通すために図書館に1週間篭ったりと労力がかかった)もありながらも、とても有意義で勉強になった仕事になった。

個人的には、アラン・シュワルツマンへのインタビューが一番オススメで、一見グローバルなハイブロウのアートシーンの話で日本には関係ないように見えるかもしれないけれど、昨今のアートマーケットのファンダメンタルな変化について示唆に富んだ内容の濃いものになっていると思う。また、50年たった今、所謂欧米において欧米以外の地域の60年代のアートシーンの動向に注目が集まっている状況、そしてそのことでその地域のコンテンポラリーへの文脈が作られつつあることにも若干触れてくれている。

自分が関わった文章以外にも、「アートタクティック」ディレクターの解説、ガゴシアンについて、イヴァン・ヴィルト、イーライ・ブロード、ムグラビ、サーチなど世界の最重要プレーヤーばかりで本当にオススメ。

今号にとりかかる際に、何冊かアートマーケットに関する洋書を読んだのだが、その中でも一番分かりやすく、系統だってマーケットを説明していたのが、「The $12 Million Stuffed Shark: The Curious Economics of Contemporary Art」という本で、ダミアン・ハーストの有名なサメのホルマリン漬けの作品が、ヘッジファンドマネージャーで有名なコレクターのスティーブ・コーエンに$12Mで購入されたエピソード(つまりマネーゲームの神のようなヘッジファンドマネージャーが一見ただのサメのホルマリン漬けにどうして$12Mも出したのかということ)から始まってグローバルアートマーケットを一つ一つ説明していく本。カナダのトロントにあるヨーク大学というところでMBAプログラムのマーケティングと経済を教えているDon Thompsonが筆者。実はこの本を読み終わった後、偶然筆者本人がサザビーズのイブニングオークションで隣に座っていたのがきっかけで知り合いになったこともあり、是非自分が和訳をして日本語版を出版できないかなと考えていたりもする。

The $12 Million Stuffed Shark: The Curious Economics of Contemporary Art
Don Thompson
Palgrave Macmillan
売り上げランキング: 72062



何はともあれ今号の美術手帖、是非読んでください。ちなみにアマゾンのレビューがかなり偏った意見が一つしかついていないことで星1つになっているので、是非読んでレビューを書いてくださいませ。

美術手帖 2012年 01月号 [雑誌]

美術出版社 (2011-12-17)

Comments

  1. それはぜったい翻訳してください!
    ぜひ!

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    Replies
    1. ありがとうございます。頑張って編集者の人口説きます(笑)。

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