アート・寄付・税金


月島にある都内ではほぼ最大のギャラリースペースを持つタマダプロジェクト ミュージアムで6月1日(金)からスタートするスペイン人アーティスト ジャウメ・プレンサの展覧会のプレビューに伺った。


会場に入ってまず驚くのが、日本のギャラリースペースでは考えられないくらい大きな作品。天上高は5メートル程度あるだろうか。そして、通常のギャラリー1つ分くらいの部屋が5つ以上あるかなり贅沢な会場で、このような展覧会は年に1・2回というから時間的にも贅沢だと言える。



今回この展覧会について書きたい内容は、会場の大きさについてではなく、この展覧会の入場収入の一部がTokyo Art Beatに寄付していただけるということについてである。具体的には会場入り口に左の写真のようなボックスがおいてあり、入場者はTokyo Art Beatもしくは、世界の医療団<メドゥサン・デュ・モンド>のどちらか寄付を希望する方のボックスに入場料金を入れていただき、半額が寄付されるという仕組みになっている。寄付を受ける側の責任者がこのような文章を書くのは少しおこがましい気持ちもするが、芸術振興を目的としたNPO法人にて日々TABを運営している者として、寄付ということについては考えることも多いので、一度いい機会と書いてみる。


Wikipedia(2007年5月29日付け)によると「寄付(きふ)とは金銭や財産などを公共事業、公益・福祉・宗教施設などへ無償で提供すること。」とある。この寄付先に芸術施設が入っていないのがやや残念だが、もちろん、芸術に関わる組織にも寄付はかなり行われている。当のTokyo Art Beatも寄付をいただいている。ただし、まだまだ年間の運営費用(全体でも雀の涙)の5%程度にとどまってはいる。

よく、日本では先進諸国の中でも寄付が少ないといわれている。実際の数字は調べる必要があるが、多分間違った観察ではないような気がする。寄付の文化があまり無いというのと、寄付者への税制上の優遇が少ないというのが良くあげられる理由である。 世界の中でも特に、アメリカではアートへの寄付が盛んであるといわれ、その影響でアートマーケットさえも巨大化しているとも言われている。

寄付者への税制上の優遇については、このページがとてもうまく説明してくれている。つまり、寄付者がある特定の法人に寄付をした場合は、その分が所得から差し引かれるため、結果として所得税が減額されるということである。税金を支払うくらいなら、用途が限られている寄付をして税の優遇を受けるほうがましだということも考えられるかもしれない(あくまで寄付金額を1とすると所得税率の逆数倍の税金と同額という意味でだが)。自分の必要としない道路を税金でばんばん作られるよりは、芸術振興活動をしている組織に寄付をしたいという気持ちは当然かもしれない。さらに言えば、ただでさえ少ない文化方面に使われる税金の多くが立派な美術館の建物を建設するのに費やされて、作品、運営人件費には全然残らない(さてそれで得をするのは誰だろうか?)という悲しい話を聞くよりは、作品、運営人件費にまわる様な寄付をしたいとも思うかもしれない。

上記ページでも説明されているが、もちろん寄付の税優遇には但し書きがつく。
・寄付者の所得税率分しか寄付の優遇が効かない。
・寄付者が寄付金控除を受けられる寄付先が限られている。

そして、TABを運営するNPO法人GADAGOは寄付者に寄付金控除を受けていただける寄付先ではありません。NPO法人なのに!残念ながら”ただの”NPO法人なのです。

日本には無数のNPO法人があるが、なんと寄付金控除を受けることができる寄付先の”認定”NPO法人は現在60しかないそうです。この話を欧米人とすると、それじゃあNPO法人であることのメリットはなんだという話になります。メリットは、ほとんど“TABは営利目的ではないことを、社会的にクリアにできること”のみなのです。

大きな政府というのが、みんなから一様に税金を集めて、満遍なく税金を使っていくシステムだとしたら、小さな政府では、寄付控除の率、寄付先の幅をもっともっと広げて、各人が税金の代わりに自分が選んだ社会貢献活動に、寄付行為をしていくというような大きな考え方の変化が起こってほしいなと思うことがあります。ヒエラルキー型社会からウェブ的なネットワーク型の社会(ウェブ2.0的!?)になっていく方向性にはぴったりだと個人的には考えています。

税金(公共益のために各個人が支払うお金)の使い道を選挙以外ででもあなたが決めることができる社会に!

そういう意味でも、寄付という行為そのものを世の中に少しでも紹介するために、今回展覧会の入場料金を寄付するという形にしたというタマダプロジェクトの玉田氏のアイデアはとても現代的であり、また入場者の方が寄付先を2つの中から決めることができるということもとても象徴的であるかもしれない。

TABはできるだけ公共的、中立的であることを目指しており、今回、寄付を受ける側として、アート・寄付・税金についての見解を自分の中でもクリアにしたいと思い、やや長めの文章になってしまった。


ジャウメ・プレンサ 「サイレント・ヴォイス」
会場: タマダプロジェクト ミュージアム
スケジュール: 2007年06月01日 ~ 2007年07月15日
住所: 〒104-0052 東京都中央区月島1-14-7旭倉庫2階
電話: 03-3531-3733 ファックス: 03-3531-3733

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