ダミアン・ハースト(Damien Hirst)のオークション結果



前のポストからかなりの期間があいてしまった、、、。通常は自分の経験からのポストしかしないようにしようと思っていたのだが、今回のダミアン・ハーストについては、大きな出来事だし、自分の考えをまとめるためにも、オークションに行ったわけではないが、オンラインのソースを元にしたまとめ記事的なことをやってみようと思う。

9月15日16日、つまり昨日、今日とロンドンのサザビーズで、ダミアン・ハーストの新作だけの異例のオークション"Beautiful Inside My Head Forever"が開催された。ここ数年で制作された計223点が15日のイブニングセール、16日のデイセールで競売された。新作とはいえ、モチーフは見覚えのあるものが多く、超よくできたエディション作品を新しく制作して彼の回顧展をオークションで行うというような趣。ここまでくるとエディション作品とユニークピースの境界線が全然分からなくなってくる。

村上隆の大掛かりな個展が、LAMOCAからスタートして、ブルックリン美術館を経て、これからヨーロッパではじまるようだが、作品はほとんどが、大コレクターのコレクションで、中には出品されていた作品(と思われる)「マイロンサムカウボーイ」が今年の5月にNYサザビーズで16億円で落札されていた。個展としてしっかりパッケージされていて作品もあるのに、作品価値が高く、保険代、輸送費、インスタレーションコストなどが高騰しすぎて日本の美術館には巡回できないそうだという話を聞いたことがある。今、誰かがダミアンハーストの大がかりな個展を美術館で開こうと思ったら、コレクターが作品を喜んで出してくれても、多額の費用がかかって実現するのは困難かもしれない。作品を見るステージ作りと作品を売るステージ作りの金銭勘定の大きな違いが、ビエンナーレなどの国際展よりもアートフェアーのほうが盛り上がってしまう場合があるという構造を作り上げ始めて、さらにそこをショートカットした形で、今回の個展形式、新作オークションという前代未聞のやり方が成り立っているのだろう。

さらに、ダミアン個人のアート活動として、去年のダイアモンドのスカル作品くらいから、直接的に、お金、マーケットという構造へのチャレンジというような活動を行ってきており、その延長線上ととらえることもできる。ここ2年程度で作った200以上もの新作を一気に放出するというのは、供給側が制限されているのに(ユニークピースなので)多くの需要があるという状況で成り立ってきたアートマーケットそのものへのチャレンジであり、大きな賭けのはずだ。ここまでくると、ダミアン・ハーストの作品の量とランボルギーニなどの超高級車の生産量と変わらなくなってくるのではないだろうか。制作と生産の違いは???

その象徴性に輪をかけるように、前日の9月14日は、米国投資銀行のリーマンブラザースが破産し、メリルリンチがバンクオブアメリカに買収される「ブラックサンデー」になってしまった。オークションを行う日としては最悪の状態かもしれないが、このダミアンのオークション、マーケット自体にチャレンジするという意味でのオークションを行うには、ドラマ性としては最高の舞台とも言えるだろう。

さて、結果だが、

15日のイブニングセール56点で、バイヤーの支払うプレミアムを含んで
Sale Total: 70,545,100 GBP
(約133億円 9/16レート)
詳細はサザビーズのページで。

16日のデイセール167点で、バイヤーの支払うプレミアムを含んで
Sale Total: 40,919,700 GBP
(約77億円 9/16レート) 
詳細はサザビーズのページで。

2日のオークションで210億円もの売り上げをあげてしまった。
僕は正直、リーマンブラザースのニュースを日曜日に読んだときに、このダミアンのオークションを皮切りに、アートマーケットもクラッシュするのではないかと感じた。もちろん、株式、債券などのマーケットと、アートのマーケットは桁が2桁以上違う訳で、どれほど大きな関連性があるか僕は知らないが、20年前の日本のバブルの際は、完全に関連していたわけだし。

この金額をどう見るかにはいろいろあるようだが、オークションハウスからライブブログなどもしていたCultureGrrlというブログによれば、見込み価格の最大値のやや下というところで、成功しているが、他のメディアなどでの最大見込み価格を超えるということではなかったようだ。彼女は、5月のNYのコンテンポラリーオークションのシーズンにも、NY Timesという大新聞でさえ、見込み金額と、実際のハンマープライスを比較するときに、バイヤーズプレミアムを含まない金額と、含んだ金額を比較していて、アップルtoアップルの比較になっておらず、アートマーケットが実際以上に盛り上がっているように見せかけるのに加担していると、批判していたが、今回もその風潮はあるようだ。

とにもかくにも、僕がなんとなく思ったアートマーケットのクラッシュは起こらずに、順調にオークションは成功したようだ。ただし、注意すべき点は、これらの作品を落札したのが、コレクターなのか、もしくは、ダミアンの作品の価格が落ちると困ったことになってしまうディーラーの人々か、もしくはガゴシアン、ホワイトキューブなどの彼を取り扱うギャラリーなのかということで、勿論、オークションの前から、これらプライマリーのギャラリスト達も、オークションで作品を買う気まんまんであると伝えられていたので、相当数そっちに買われているのであろうが、それが大半だとすれば、ディーラーを通さずに行う新作のオークションそのものがとんだ茶番劇になってしまいかねない。ホワイトキューブにはかなりのダミアンの在庫があるようだというニュースも流れていたわけで。

今年の6月のバーゼルアートフェアーの後には、欧米のコレクターの勢いはさすがに衰え始めたものの、その分を、ロシア、中東のオイルマネー、新興国マネーが買い支えているという理解だった。ここにきて、世界中の経済にブレーキがかかりはじめ、石油価格の下がりはじめると、誰がアートマーケットを買い支えることができるのかという素朴な疑問はやはり頭のどこかにある。もしかしたら、大コレクター達の可処分所得は、世界経済のブレーキや、オイル価格の下落などに左右されるほどやわなものではないのかもしれない。次は、ロンドンのアートフェア、11月のオークション、12月のマイアミなどをしっかり見ていくべきだろう。12月のマイアミはやっと行こうと思っているのでいろいろな意味で楽しみだ。去年よりはトーンダウンすることはすでに予想されているようだが。

とはいえ、アートマーケットはまだまだ元気なようで、大コレクターのフランソワ・ピノー氏がクリスティーズとともに経営するヨーロッパのギャラリーであるHaunch of Venisonがいつの間にかNYにもできたようだ。チェルシーの多くのギャラリーと取り扱い作家が重なっている気がするが、本当にこのハイエンドの世界はなんでもありで、一般市民の私にはついていけません。
ちなみに、このHaunch of Venisonのウェブページは、以前僕も少し勤めていたLess Rainというウェブデザインスタジオの手によるもので、コマーシャルギャラリーのウェブサイトとしてはトップレベルのできだと思います。って、最後はとんだ脱線をしてしまいました。。。

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